明暗が分かれる3つのポイントとは?
総論 株式会社求人 代表取締役/採用プロファイラー 石塚 毅さん
「2024年の秋、採用市場の景色が完全に変わりました。従来の手法がまったく通用しなくなり、特に中堅・中小企業の新卒採用は、就職ナビサイトなどに登録してもエントリーがまったくないという状況が散見します。この流れは加速していて、厳しさは増す一方です」
このように説明するのは、株式会社求人の代表取締役で採用プロファイラーの石塚毅氏だ。長年、人材採用に携わり、現在は多くの企業を支援するスペシャリストである。採用市場の異変は、数字でも裏づけられる。リクルートワークス研究所の「労働需給シミュレーション」では、2024年に需給ギャップが大きく開き始め、需要に対して約25万1000人の人材が不足している。さらに2025年は倍以上の63万3000人、2026年は100万人超が不足する見通しだ。同氏は「この数字が、採用現場にも如実に表れています。特に首都圏の採用難は非常に深刻です」と警鐘を鳴らす。
他方、コロナ禍前の2019年頃までに何らかの手立てを講じていた会社は今、順調に採用ができているとも語る。採用を含めた人材に関する問題を経営課題として位置づけ、本気で取り組んできたか否かで、明暗がくっきり分かれているのだ。「特に中堅・中小企業にとって採用は本来、会社の資金繰りと同じレベルで、経営課題の最上位にくるほどのプライオリティであるべきです。月末に資金がショートしそうな状況で、その対応を経理担当に任せたままという経営者はいないでしょう。採用についても、トップが同じように危機感を持って考えるべきです」ところが、こうした話は経営者になかなか響かないそうだ。
「この話を真剣に受け止める経営者は200人に1人、0.5%程度です。ただ、そうした極めて稀な会社が各業界や地域に必ず存在して、結果的に今、採用は絶好調なのです」
採用がうまくいく会社の特徴について、石塚氏は大きく3つのポイントを指摘する。1つは前述したように、採用を含めた人材に対する意識の高さ。採用を人事課題と捉えるか、重大な経営課題と考えるかで、対応がまったく違ってくるわけだ。そして2つ目は「熱意」である。
「1つ目にも通じますが、“人材”に対して体温の高い会社は、採用が上手です。特に若手採用では体温の高さが顕著に影響しますし、中堅・中小企業の場合、経営者の温度感がそのまま会社全体の体温になります。トップが採用のすべてに関わる必要はありませんが、ここぞというときに自ら現場に立って口説き落とすくらいの熱意が必要です。『うまくやるよりも一生懸命にやる』と私はよくいいますが、テクニックよりも採用に懸ける強い思いがあるかないかの差が大きいでしょう」
3つ目は、会社の経営理念やミッション、ビジョンを明確に言語化できていること。
「採用したい相手を巻き込み、会社として何を実現したいのかが明確でなければいけません。これを質問されたときに、経営者が具体的に説明できないとダメです。トップが語れない以上、採用担当者も話せません」
そして、これら3つの集大成となるのが採用ターゲットだ。自社に必要な人材像を明確に絞り込むことが何よりも重要で、大きな母集団の中から、漠然と優秀な人材を採りたいというのでは、採用はおぼつかない。裏を返せば、採用ターゲットを明確化していれば、その人材に出会うための採用ルートも自ずと決まる。

悪循環の泥沼から抜け出すために覚悟を!
採用ターゲットを定めたら、そこに向けた待遇や労働環境などの法定外福利厚生を戦略的かつ攻撃的に活用すべきだとも、同氏はアドバイスする。例えば若手であれば、結婚や出産などのライフイベントに応じて、お祝い金を出すなどが有効だ。住宅手当や借り上げ社宅を用意するのも良い。ミドル層に対しては、給与設計の見直しで成功しているケースがある。定年以降、給料は下がるのが一般的だが、65歳まで賃金が上がり続ける会社が今、転職市場でひそかに人気だという。晩婚化にともない、子どもの養育費などが従来よりも遅い年齢まで必要なこともあり、目先の年収が多少下がっても、長く稼ぎ続けられるほうが響くという。
ただ、福利厚生の充実は、条件面で釣るという意味ではない。先に挙げた3つのポイントを押さえたうえで、どうしても採りたい人材を確保するための施策である。
「要するに、他社がやらないところに目を向けるということです。女性やシニアの活用、福利厚生の充実、給与設計の見直しなど、ありとあらゆることを考える。従来通りでは、採用できない時代になっています」
とはいえ、多くの企業は足元の人手不足に頭を抱えているのが実情だ。その中でなんとか採用した人材も、すぐに辞めてしまうという悪循環に陥っているケースも多い。そうした泥沼から抜け出す方法はあるのか。
「採用には時間がかかります。ですから、あらゆる固定観念を排して、知り合いのツテや業務委託、外注でもいいので、とにかく目先の必要な人員を確保して時間を稼ぐ。その間に、全社プロジェクトとして採用を含めた人材に関わる制度を抜本的に変えてください。トップが創業以来の経営危機だという認識を持ち、覚悟を決めて本気で取り組まない限り、先行きは極めて厳しいでしょう」
石塚氏のこの助言を、どう受け止めるか。会社の未来を大きく左右する分岐点に今、私たちは立っている。


株式会社求人 代表取締役/採用プロファイラー
石塚 毅さん
1970年生まれ。リクルートエグゼクティブエージェントを経て現職。26年間、のべ8000社・2万件以上の求人を担当、5000人以上の採用実績。採用ターゲットのプロファイリング力が高く、ハロワ活用やユニークな求人票作成、ヘッドハンティングなど独創的な採用で知られる。
機関誌そだとう222号記事から転載