トレカン
~Treasure Company~

人の可能性を伸ばし、
日本の開発をリードする

株式会社高池
株式会社高池
主な事業内容:
ワイヤーハーネス、電子機器、制御盤の設計・製造
本社所在地:
静岡県沼津市
創業:
2003年
従業員数:
194名

 

「殿様企業にぶら下がって、いうことを聞き、顔色をうかがう。これからの中堅・中小企業は、そんな城下町スタイルではいけません。つくり手の強さをしっかりと主張して、日本の製造業を底上げしていきたい」
そう話すのは、静岡県でワイヤーハーネスや電子機器の設計・製造を手がける高池の古井誠社長だ。ワイヤーハーネスとは、電源供給や信号通信に必要な複数の電線を、束にして端子やコネクタと組み合わせ、集合部品にしたもの。電気配線を必要とするさまざまな機械装置で用いられている。少品種を大量生産する同業他社が多い中、高池は多品種・小ロットの製造に特化して差別化を図り、事業を拡大しているのが特徴だ。

量産で勝負しない戦略。築いた特異なポジション

工場には壁をつくらず、全工程を見渡せるようにした。各工程の状態
が一目でわかり、作業状況に応じて人員のリリーフがなされている。

同社はもともと、東京計数工業という企業がハーネス製造部門として立ち上げた新事業部だった。事業部発足から8年後、独立して生まれたのが高池である。当時は大手ゲームメーカーを相手に、ゲーム機に用いるワイヤーハーネスを量産していた。しかし、メーカーが海外へと製造拠点を移し始め、受注が不安定な状態に。新規の依頼がきても他社との価格競争になってしまい、業績の波が大きかった。どうにか安定的に仕事を取れないか。そう考えてたどり着いたのが、インターネットを活用した小ロット依頼の受注だった。

「『ロングテールの法則』という理論があります。大量に売れるモノやサービスは、市場全体の2割ほど。実はそれ以外は、さまざまな種類の少量しか売れないモノやサービスが占めているという考え方です。例えばAmazonは創業当初、1~2冊しか売れない本をいかにラインアップするかに注力し、多種多様な品物を扱うことで顧客を増やしました。それと同じように、私たちもニーズは少ないけれど確実に需要のある、細かな市場で戦おうと決めたのです」

インターネットで検索して相談してくる顧客は、何か困っていたり、切羽詰まったりしている場合が多い。そこに対して価値を提供する仕組みをつくることで、高池は他社と一線を画すポジションを獲得したわけだ。現在は“1本からでも対応OK”を売りに、試作品製造など痒いところに手が届く事業を展開。「いろいろな会社に断られた末に当社へ電話をしてきた企業に“つくれますよ”と答えたら、電話の向こうから拍手が聞こえた」とのエピソードがあるほどだ。今では紹介も多く、同業他社から対応できない案件がまわってくることもあるという。量産で勝負していないことで、同業とも協力し合える特異な存在なのだ。

 

品質保障の1つとして、端子を圧着した際の圧縮率を測定する端子断面解析システム(写真左)。
また、高池では製品の相手側部品を使用し、半田付けなどの加工を行い
治具を作製、検査をしている(写真右)。

自立型組織という形が、効率化とやりがいを育む

「例えば、5社のハーネス製造会社と契約しているメーカーがあったとします。もしメーカーの業績が落ちて、いくつかの会社と契約を終了しなければならなくなったら、生き残るのは一番シェアを取っている会社と当社でしょう。どんなに小さくても、他社がつくれないものをつくることができる会社とは、つき合い続けておきたいと思うからです」

端子の圧着状態は、部品の中に入る前段階で、
人の目によって全数検査を行う。

とはいえ、1種類を大量に製造するよりも、多種を少量ずつ、たくさんつくるほうが手間と時間がかかる。だからこそ、なるべく業務を効率化し、スピード感を持つことが肝要だ。見積もりも設計も、大量生産の同業他社よりさばくべき数が多い。そのため、システムやデータベース、部品供給のフローなどあらゆる業務を常にアップデートし、効率良く顧客へ届ける努力を重ねる。ここには、スピード感に対する古井社長のこんな考え方が反映されている。

「当社に依頼するまで、すでに顧客は多くの会社に断られていて、希望する納期までに、もう時間がないことがほとんど。だからこそ当初は、他社なら3週間かかるものを2週間で仕上げようと考えていました。でも、ワイヤーハーネスは機械をつくる最後の最後に設計が決まる部品。だから、そもそもワイヤーハーネスを2週間待つのは、ストレスなのです。より早く納品できればその分、機械全体の完成が早まる。私は、日本の開発スピードが遅い理由の1つに、各部品の納品を待つ時間ロスがあると思っています。だから社員には、自分たちが日本の開発分野に貢献していることを自負しようと伝えているのです。他社と競うのではなく、顧客に合わせるということ」

システムや設備と並んで、業務の効率アップのために採用しているのが、課長や部長といった役職を置かないフラットな組織体制だ。部署ごとの統一感を保つため、各部署にチーフが1人ずついるものの、部署のメンバーはチーフの部下ではない。高池の組織図は、社長を中心に業務フローに沿って渦巻き状に各部署が配置されており、一般的なピラミッド型の組織体制とはまったく異なる。

「組織は何のためにあるのか。それを突き詰めた結果が、今の体制です。ピラミッド型組織は、下にいる人たちを管理するために上の人が存在していますが、それが必要なのは、下の人たちが何をすべきかわかっていないからでしょう。各自がやるべきことを理解し、自立的に動けるのなら、管理職はいりません。もちろん、業務はきちんと教えますが、仕事を覚えたらすぐに独り立ちです。いつまでに何をすべきなのか、何の部品をいくつ揃えないといけないのか。そうしたことを、社員一人ひとりが自分で考え、働いています」

上司の指示に従って動くことが当たり前の環境から、自分で考えて行動する環境へ。特に中途採用者は、同社の自立型組織に面食らうという。しかし、慣れるとやりがいを感じ、のびのびと活躍するようになる。

 

高池独自のフラットな組織体制を表した組織図。

 

「電子回路や機械とは違い、ハーネスには規格がない。だから、顧客ごとにいろいろな表現で発注されます。そこからしっかりと要望を読み解き、設計に落とし込んで形にしていくことに、社員は手応えを感じながら取り組んでいるようです。私たちが新しい組織体制でさらなる成長を描いていくことで、200名が自主的に動くのがもっとも効率的なのだということを証明したいと思っています」

自ら考え、行動することには責任が伴う。しかし、責任の重さは、やりがいと比例することもまた事実。高池の社員たちは、平等にそうした経験を積み重ねているのだ。だからこそ、成長スピードも速い。

社員と会社にベストな形へ柔軟に制度や働き方を変える

代表取締役・古井 誠氏。

フラットな組織体制をベースとし、同社では今、働き方を見直したり、より生産性を上げる方法を検討したりと、さまざまな施策が進行している。その1つが、アクションプランの策定だ。全社員が能力を発揮し、仕事と生活の調和を図ることを目的に、3つの目標を掲げて実行している。第1は、セミナー受講によるスキルアップと意識変革である。
「社内にも研修制度はありますが、できれば社外へ出るのがいい。新しい刺激を受けてくる人が多くいます」

第2に有給休暇の積極的な取得の推進。第3に、子育て中の社員は就業時間をフレキシブルに調整すること。高池はパート社員を含めて、約8割が女性。ただ、女性が仕事と家庭を両立できる環境づくりに力を入れているのは、女性社員から声が上がったからというわけではない。
「例えば、子どもが病気になったとき、両親ともに仕事へ行ってしまうという状況が、私は嫌なのです。当社で長く勤めてもらうにも、まずは家庭を第一に考えてもらいたい。子どもや自分の親を最優先にしてね、と社員に伝えています」

同社では在宅勤務がまだ一般的でなかった約15年前から、設計や見積もり作成の業務を在宅で行う仕組みを設けている。育児や介護、自身の障がいなどが理由で、外で働けない優秀な人たちが、日本にはまだまだたくさんいる。そのことにいち早く目をつけ、戦力化してきたのだ。

これらのアクションプランに取り組みつつ、「プロジェクト3」と題した社員主体の社内変革プロジェクトも進行中だ。そのうちの1つが業務時間の短縮化である。「集中して働けば、1日8時間の就業時間は長過ぎる」という古井社長の考えが発端だ。
「定時は18時ですが、17時までに仕事は終わらせて、残りの1時間は勉強やリフレッシュの時間に使ってもらいたい。社会の変化についていくためには、日々学び続ける必要があるし、疲弊していては仕事の効率は上がりませんから」

 

(左):フィリピン工場から研修生が訪れ、古井社長の自宅でホームステイしながら技術
や知識を学ぶ。社員の結婚式でフィリピンに招かれ、父親代わりにバージンロードを歩く
ことも。(右):作業効率向上のため、各工場や協力会社と常にディスカッションする。

 

こうした社員ファーストの姿勢は、採用面でも大きな武器になっており、社員や地域の人の紹介で入社する人がとても多いそうだ。なかには、自宅に引きこもっていた人を採用した例もあり、その社員はもう15年以上、継続して勤務しているという。
「一定の期間内に、あるレベルまで達することができる人もいれば、倍の時間をかけて達する人もいる。あきらめずに見守りながら、長い目で見て育てることを大切にしています」

人の可能性を信じ、機会を与えて自立に導くスタイルが、いかに会社を強くするか。それを突き詰めたいのだと、古井社長は語る。大きなメーカーとも対等に渡り合える力をつけ、日本の製造業を底上げし、弱い中堅・中小企業像を打ち破る。そんな未来に向け、今日も高池はアップデートし続けるのだ。

 

古井社長の背後にあるのは、高池が保有する最新の高性能
全自動圧着機「TRD602」。日本で導入したのは同社が初め
てで、品質のさらなる向上と時間短縮を実現している。

 

機関誌そだとう220号記事から転載

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