投資先受賞企業レポート

光の可能性を信じ、未来を照らす挑戦を!

「苦しいときにこそ投資」で生き抜く強さとは……

河北ライティングソリューションズ株式会社

今野康正社長
1979年、河北ライティングソリューションズの
前身である近藤シルバニアに入社。生産技術部門
の管理職を経て、フィリップスライティング時代は
製造部長としてMBOマネジメントチームに参画。
独立後、取締役生産本部長を経て、2014年より現職。

河北ライティングソリューションズ株式会社
主な事業内容:
特殊ランプ開発、製造、販売
本社所在地:
宮城県石巻市
創業:
1927年
従業員数:
210名

 

河北ライティングソリューションズ(以下、河北ライティング)は、創業から約1世紀にわたる歴史を持っている。その間、外資系企業との合弁やMEBOによる独立、リーマンショック、東日本大震災など数々の試練を乗り越えてきた。

同社は宮城県石巻市を拠点とし、高い技術力をベースに、医療、半導体製造、航空照明、検査光源といった産業用途のハロゲンランプ、映画やテレビ撮影用のメタルハライドランプなどを製造、販売している。ニッチな分野だが、実は生化学分析(血液分析)装置用光源で世界市場の約7割を占めるトップ企業だ。半導体製造分野においても、独自技術で安定性と長寿命を兼ね備えたシリコンウエハー熱処理用ハロゲンランプは、世界のトップメーカーから高い評価を受けている。

創業から約1世紀にわたり、特殊光源の専門メーカーとして
培ってきた技術力と開発力は、信頼性の高い製品へと結集
され、世界中で認められている。

当初、白熱電球を使った映写用ランプの製造を行っていた河北ライティングの前身である近藤電気工業所は、1968年にハロゲン電球の技術を取り入れるためアメリカのGTEシルバニアと合弁。それによって同社は技術力を高め、高品質のハロゲン電球を開発することに成功した。しかし、特殊光源の市場規模は小さいため、一般照明用電球の市場へ参入することを決断する。

「映写用照明は、寿命よりも強くて明るい光源であることが優先されます。でも、一般照明は正反対で、安くて長寿命であることが求められる。安価な海外製品の市場参入により価格競争を強いられ、一般照明からは撤退し、産業用特殊光源に特化することを決めたのです」

そう振り返るのは、同社の今野康正社長だ。当時、映写用光源を事業の柱としていた河北ライティングでは、血液分析用光源も生産していたが、売上全体に占める割合は低く、そこに重きを置いていなかった。

ところが、血液分析装置メーカーが純正部品として使用していた他社製ハロゲンランプのトラブルをきっかけに、河北ライティングがつくる製品の安定性や長寿命が高く評価され、純正部品としての採用が決まる。

「ランプにおいて高効率で安定することと、長寿命を実現することは、実はまったく異なる技術で、それを両立させるのは非常に難しい。ただ、私たちは一般照明市場への参入に挑戦したとき、長寿命ランプの開発自体には成功していました。パワーや安定性についてはもともと培ってきた技術があったので、それらを結集した製品を開発できたのです」

この血液分析用光源が、のちに世界で約7割のシェアを取り、同社をトップ企業に押し上げていくのだ。

安心して働ける環境へ。思い切った独立の決断

そうして技術力を磨いていった河北ライティングは、1992年にGTEシルバニアとの合弁を解消し、フィリップスライティングホールディング(現Signify、以下フィリップス)の子会社となる。しかし、産業用特殊光源に特化しようと考える河北ライティングと、大市場を重視するフィリップスとの間で、経営戦略の違いが明らかになっていく。

「フィリップスは世界規模の企業ですが、産業用特殊光源の分野は得意としておらず、私たちが高品質の製品をつくっても販売ルートを持っていない。以前からの顧客に直接販売することは認められていたので、自分たちで製造、販売を行っていました。しかし、フィリップスがいつハロゲンランプ事業への注力をやめ、生産調整や規模縮小、ひいては工場閉鎖という判断を下してもおかしくない状況だったのです」

そこで河北ライティングは、工場閉鎖や雇用不安を抱えながら働き続けるのではなく、いっそフィリップスから自社株式を買い取って独立するMBO(マネージメントバイアウト)を模索しはじめる。
「リストラなどの危機感を抱き続けるよりも、安心して仕事ができ、自分たちが思うような製品を開発し、自らが目指す市場に参入できるような状態を目指そうと考えました」

投資会社や金融機関との交渉を進める中、従業員からも出資金を調達することを決断。最終的には全従業員が出資する形で、MEBO(経営陣と従業員が一体となって行う、対象会社株式の買収)を実現した。
「給料の1~2カ月分もの出資で、失敗すればお金は戻ってこない。従業員だけでなく、そのご家族も賛同してくれたから実現できたわけです。自前で技術力と開発力を高めてきたという自負が一人ひとりにあり、会社の将来性に期待があったからこそ、独立を果たせたのだと思っています」

全社一丸となって、会社の未来にかける強い思い。それが今回の、グッドカンパニー大賞「優秀企業賞」受賞へとつながっていくのだ。

しかし、独立を果たしてから数年間は資金繰りへの不安が絶えなかったという。それでも、医療分野や半導体製造分野をはじめとする産業用特殊光源の製造に力を入れ、なんとか軌道に乗ってきた矢先の2008年、リーマンショックの深刻な影響を受けることになる。

「輸出販売が約6割を占めていたので、需要の大幅な減少と急激な円高で売上が大幅に落ち込みました。しかし、医療用特殊光源だけは唯一、売上が伸びていたんです。リーマンショックは、医療のような経済的な影響を受けにくい市場に注力しようと考えるきっかけになりました。もしも、まだフィリップス傘下でリーマンショックに直面していたとしたら、日本工場は閉鎖されていた可能性が高いでしょう。独立の時期が数年ずれていたら、まったく違う展開になっていたかもしれません」

立て続けの危機に、BCPが奏功する

リーマンショックから数年後、日本社会は再び、大きな逆境に直面することになる。2011年に発生した東日本大震災だ。河北ライティングは震源地に近い石巻市に位置していたが、高台にある本社と工場には直接的な被害はなく、社内にいた従業員も全員無事だった。しかし、電気や水道などのライフラインが途絶えて工場での生産は停止してしまう。また、家が被災して避難所生活を余儀なくされたり、家族が犠牲になったりした従業員も少なくなかった。

生産ラインでは高い技術を持った匠たちが、
手づくりで価値を生み出している。

「電気と水が復旧すれば工場は再開できますが、手作業の工程もある生産現場では、人が一番大事です。当然、すぐに元通り、というわけにはいきませんでした」

ただ、震災によって一時的に生産体制は崩れたものの、売上を落とすことなく乗り切れたという。その支えとなったのは、2008年にアメリカの大手半導体メーカーと取引を始めるにあたって求められた、BCP(事業継続計画)だった。

当時の日本ではまだ馴染みのない危機管理の概念だったが、河北ライティングは契約に基づき山形県天童市にBCP用倉庫を設置。石巻の本社工場が何らかの理由で動かなくなった場合でも、天童の倉庫から出荷できる体制を整えていたのだ。ここに医療機器用と半導体製造装置用の特殊光源を在庫として揃えていたため、震災後も製品の供給を維持することができた。

また、これと同時に、同社は2010年からベトナム進出を計画。当初は価格競争力強化が目的だったが、東日本大震災を経て、BCPの意味合いが強まっていったという。加えて、需要の高まりに備えた生産能力増強拠点としての役割もあった。ベトナム工場の稼働後は、日本とベトナムでの並行生産体制が確立され、より迅速な対応が可能となる。現在、さらなる需要増を見越して、石巻工場の拡張も進めている。

「独立直後に、リーマンショックや東日本大震災という未曾有の危機に直面しましたが、天童市の倉庫をつくっていたことで対処できました。その経験から、『苦しいときにこそ投資』という言葉の意味をあらためて実感したのです。ベトナム工場の設立や石巻工場の拡大という判断は今後、必ずや活きてくるでしょう」

働きがいを提供し、ニュービジネスの創出へ

河北ライティングはものづくり企業として、「手でつくることに製品の価値がある」と考え、人材がもっとも重要だと常に意識している。

「高い開発力も技術力も、それを実現させるのは人です。生産性を高めなさい、品質を向上させなさいといっても、本人にその気持ちがなければ実現できません。難易度の高い製品を開発してクライアントの期待に応えられた、自分の手でつくったものがお客さんに喜んでもらえた、といった実感が大切。特にランプの生産は完全に自動化するのが困難で、一人ひとりの技術にかかっています。今回の受賞も、従業員の大きな励みになっているでしょう」

従業員の8割以上が石巻地域の出身者だという同社。地元での雇用創出や、働きがいのある仕事の提供は、地域貢献にもつながっている。
「雇用が定着すれば、生まれ育った地元に残ることができる。そこで生まれた子どもたちにも、いずれはこの地域で働きたいと思ってもらえたら、この上ない喜びです。地方企業では『求人を出しても応募が全然こない』という話をよく聞きますが、当社ではありがたいことに毎年、たくさんの学生が応募してくれています。今年は5人採用する予定でしたが、優秀な学生が多く、7人採用しました」

 

(左)社内の食堂からは、雄大な北上川と上品山を眺めることができる。暖かい日には
屋上のウッドデッキで昼食をとることも可能。
(右)特殊光源開発に軸足を置きながら、

光応用技術の領域拡大によってウイルス不活化光源の研究・開発を成功させた。

 

ワークライフバランスの実現にも力を入れている河北ライティングは、SDGsの普及啓発や達成に向けて活動する「いしのまきSDGs」パートナー企業でもあり、積極的に独自の取り組みを行っている。例えば、通常の健康診断に加え、職場内での体操やメンタルトレーニング、全従業員を対象としたカウンセリングを実施。製造業界ではなかなか難しいとされる年次有給休暇の取得にも注力し、取得率90%以上を維持。こうした取り組みによって従業員たちが安心でき、前向きな気持ちで仕事と向き合える環境整備を行っている。

2014年にトップへ就任した今野社長は、2018年に光応用研究開発部門を新設した。同社ではかねてから取引先の要望に応じて、新たな特殊光源の開発に取り組んできたが、今後は〝ニュービジネスクリエイション活動〟へさらに力を入れたいと考えたからだ。

「私が入社してからの40年間を振り返っただけでも、白熱電球を使ってスクリーンにフィルムを照射する時代から、プロジェクターやパソコン、スマートフォンなど、めざましい進化を遂げています。現在、当社の主要事業は医療や半導体ですが、数十年後はまったく違う事業が中心になっていてもおかしくありません」

だからこそ、未来を見据えた、新たな光のニーズを模索する必要があると同氏は強調する。

「私たちは約1世紀にわたり、光の応用について一貫して研究開発を続けてきました。ものを検査する、赤外線で見えないものを見えるようにする、紫外線で浄化するなど、さまざまな分野で光は不可欠です。光にはさまざまな可能性があり、その運用に関する研究を私たちから提供できるようになりたい。今は、光を使った農業分野での害虫駆除や、ウイルス不活性化などの研究を進めています」

どんなに時代が進んでも、光が不要になることはない。スペシャルライティング分野でリーディングカンパニーになるという目標へ、失敗を恐れずにチャレンジを繰り返す河北ライティングの今後が楽しみだ。

 

丘の上に立つ本社および工場からは、石巻を一望できる。社屋入り
口にある絶景スポットは、地元住民の方々にも開放しているという。

東京中小企業投資育成へのメッセージ

地方に根差した中堅・中小企業にとって、経済や世界の動向は、なかなかつかみづらいものです。投資育成さんには投資先を中心とした産業界や経済界とのつながりがあり、私たちにとっては企業間をつなげる重要な存在でもあります。中堅・中小企業が将来的に何を見据えていく必要があるかというアドバイスも含め、末永くご支援いただければと願っています。

 

投資育成担当者が紹介!この会社の魅力

業務第三部 部長代理
野々村 渉

この度はご受賞おめでとうございます! 河北ライティングソリューションズさまはグローバルに展開しながらも、地域や従業員と真摯に向き合う企業です。光を用いた社会課題の解決にも注力し、さらなる発展が期待されます。出資させていただいている1000社超の企業ネットワークを使い、ビジネスマッチングや経済の動向を含む各種情報の提供に、今後も努めてまいります。

機関誌そだとう218号記事から転載

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