投資先受賞企業レポート

4つの柱で成長し続け、オンリーワンを獲る

驚異の加工技術で、「髪の毛より細い」超硬合金を!

株式会社アルファーテック

大野和実社長
1960年生まれ。大卒後入社した鋼材販売会社が
経営破綻した後、89年に6人でアルファーテック
設立。93年社長就任。座右の銘は「人のせいに
しているうちは人間は成長しない」。

 

株式会社アルファーテック
主な事業内容:
小径精密部品製造
本社所在地:
神奈川県横浜市
創業:
1989年
従業員数:
48名

 

医療用のカテーテル内部には、動きをコントロールするための極細のワイヤーが入っている。細いもので直径が0.05mmと、髪の毛ほどの太さである。しかも先端に向けて細くなるテーパー形状で、長いものだと2m以上にもなる。このような小径かつ微細な加工を得意とする会社が、神奈川県に本社を置くアルファーテックである。

「医療機器の展示会に参加したとき、長いテーパー状のワイヤーがつくれるかと聞かれて、即座に『対応できる』と答えました。実際につくってはいなかったものの、躊躇していたらチャンスを逃すし、その技術の基礎はあるという自信はありました」と、同社の大野和実社長は語る。
試作を何度か繰り返したのち、2年後の2013年にはカテーテル用のワイヤー量産を開始。医療分野への参入を果たした。

極細の超硬合金を削り出す独自の技術

同社は超硬合金を直径0.03mmまで微細研削できる技術を持ち、製品によっては世界で数社しか対応できないというオンリーワン企業である。その同社が磨き上げてきた技術の一つが「センタレス加工」だ。

太い径の加工は通常、旋盤を使って行われる。旋盤は回転しながら加工物を削る装置だ。精度を上げるためには、対象物の中心部を割り出し、コレットチャックという治具で締め付ける必要がある。これを「芯出し」「センター出し」などという。
これに対してセンタレス加工では、まず、円盤形の砥石と調整車の間に加工物を挟み、下から板状の刃で支える。そのうえで加工物を回転させながら外周面を研削していく工法だ。回転させると、加工物の中心が自然と回転軸になるので芯出しは不要。だから「センタレス」と呼ばれる。

アルファーテックはセンタレス加工による小径精密部品に特化し、ニッチながら社会に必要とされる市場を開拓、成長し続けてきた。22年度で20期連続黒字決算を達成、経常利益率は10%を超える高収益企業だ。

債務超過に陥り、再建のために社長就任

長年培ってきた細いピンを製造する技術を
応用し、2011年以降はカテーテル用高精度
ワイヤーなど、医療分野に進出した。

現在、事業分野は大きく以下の4つに分かれる。
第1に半導体・電子部品。主に半導体検査装置の端子に使われるコンタクトプローブやセラミック基板の穴開け用パンチに利用されている。
第2は自動車分野で、ディーゼルエンジンの燃料噴射ノズルに穴を開ける放電加工用電極を材料メーカーに納めている。
第3は医療。冒頭に述べたカテーテル用ワイヤー、薬液や血液を通す医療用チューブの芯がね、内視鏡の先端に装着する部品などを医療機器メーカーに納品する。
そして第4が金型で、細い穴を打ち抜くためのパンチピンやコアピンなどを供給している。
今でこそ4つの柱を持つことで、安定した経営を続けている同社だが、昔からずっと成長し続けてきたわけではない。

大野社長は大学卒業後、鋼材販売会社に入社。その加工部門で、ドットプリンターヘッドの印字ワイヤー(ドットワイヤー)を製造していた。ドットプリンターとは、ピンを叩きつけインクリボンのインクを押しつけて印字する方式。当時はプリンターといえばドット方式だったが、今では複写伝票や通帳記帳などの需要が残っている程度である。

ところが1987年にこの鋼材会社が経営破綻する。債権者の1人は大野社長を見込んで、「ドットワイヤーを続けるなら支援する」と、89年に大野社長を含めた6人でアルファーテックを設立した。
「当初はドットプリンターの需要があり、食べていけると思ったのです。でも次第にインクジェット式やレーザ式のプリンターが主流になり、仕事が減っていきました。ドットワイヤーの1本足打法だったため、経営が苦しくなってしまったのです」

大野社長は当時、取締役として営業や製造を管轄していたが、財務など経営状況を把握していなかった。前社長も用途や販路開拓に苦心したもののうまくいかず、93年に大野氏に社長交代している。
「就任後、財務状況を知って驚きました。債務超過で、借金がかなりあったのです。どうやって生き残るか考えても、当社にはセンタレス加工技術しかありません。ならばそれを磨くしかないと思ったのです。当時、直径1mm以上の加工を行う事業者は多かったですが、0.3mm以下の小径を扱うメーカーはほとんどありませんでした。つまり需要の少ないニッチな領域でしたが、それでも需要はあるわけで、細いことに加え、加工困難な形状や材質を積極的に扱うことで差別化をしようと決めたのです」と、大野社長は当時を語る。

できないと言った瞬間、本当にできなくなる

「センタレス加工技術における医療機器分野
への展開」が評価され、第37回(2022年度)
神奈川工業技術開発大賞奨励賞を受賞。

同社は94年、最新鋭のNC(数値制御)研削盤を導入した。資金はなかったが、幸運なことに機械メーカーが一定期間、無償貸与してくれたのだ。これが追い風になった。
実はそれ以前に半導体検査装置用のコンタクトプローブ生産の依頼を受けていたが、高価なダイヤモンド入り砥石がすぐに摩耗し、利益が出なかった。だが、NC研削盤で微妙な調整ができるようになると、砥石の寿命が50倍になり、十分な採算が取れるようになった。今も同社の主力製品だ。

次いでテレビのスピーカー用の穴をつくる金型用のコアピンの注文が入った。1つの金型で3万本以上ものコアピンを使い、しかも短納期だったので、引き受ける会社はアルファーテックぐらいしかなかった。
「断る選択肢はなく、土日も夜も返上でつくりました。2カ月間ほとんど工場で寝泊まりする状況でしたね。創業メンバーの1人も付き合ってくれました。たまに帰宅して工場に戻ろうとすると、子どもに『また来てね』と言われたのには参りました」と大野社長は苦笑いする。

このコアピンづくりには3工程が必要だ。手間がかかることが、土日も夜も返上した理由だ。大野社長は、何か効率的な方法がないか考え続けた。そしてついに夢の中で「1工程で仕上げる方法」を思いつく。「どんな方法かは企業秘密です」と語るこの方法によって、短時間で生産できるようになり、さらに工程が減ったことで精度を向上させることにもつながったのだそうだ。

大野社長は積極的に展示会へ出展。医療用器具の
製造を本格化したのも、展示会で問い合わせを受
けたことがきっかけだ。

99年には新工場を建設。その頃にはようやく債務超過も解消できた。だが、運命は厳しい。2001年にITバブルが崩壊し、半導体関連の仕事が消えた。工場のための借金もある中で、給与カットなどでしのいだ。そのとき、ある材料メーカーからディーゼルエンジンの燃料噴射ノズル用電極の注文が入った。
だが、直径0.1mm以下で、寸法精度は±0.0005mmという厳しさである。当時の設備では対応できなかった。そこで機械メーカーに専用機を特注し、実現させた。これによってヨーロッパにまで市場が広がったという。

11年には医療機器展示会に参加し、冒頭のようにカテーテル用ワイヤーにも参入。大野社長は窮地から成長軌道に乗せられた要因について「できないと言った瞬間にできなくなる。だから、顧客の相談は断らないようにしてきました」と語る。
とはいえ場当たり的にこなしてきたわけではなく、「本質を追究し、現象の構造的な解析が重要だ」とも語っている。その姿勢こそが、同社の技術力を高めた原因だろう。

 

東京中小企業投資育成へのメッセージ

BSやPLも知らなかった私は我流で経営をしてきただけに、投資育成にはいろいろと教えてもらいました。今後は後継者育成に期待しており、専務(大野和基氏)を次世代経営者ビジネススクールに通わせました。

投資育成担当者が紹介!この会社の魅力

業務第四部 主任
細川敦史

髪の毛より細い加工品は、本当に衝撃的でした。超微細センタレス加工というニッチ市場に目を付け、自社の強みをさらに伸ばしていかれた大野社長の経営姿勢は本当に学ばせていただくことばかりです。「できませんと言ったらそこで成長が止まる」という大野社長の言葉を肝に銘じて、私も精進したいと思います。

機関誌そだとう216号記事から転載

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