躍進企業の一手。圧倒的「ブランディング」

“真似できない”を追求。変化を止めるな

~業界内での地位を確立していた主力事業を、刷新する英断……~

CASE②株式会社桜井グラフィックシステムズ

 

「2023年9月をもって、オフセット印刷機の製造事業からは脱却します。大量生産・大量消費を前提とした印刷機製造業から、サービス業へ移行していかなければ、今後は生き残れないと考えるからです」
こう語るのは、オフセット印刷機メーカーとして業界内での地位を確立している、桜井グラフィックシステムズの桜井隆太社長だ。

 

桜井隆太社長

株式会社桜井グラフィックシステムズ
主な事業内容:
自動スクリーン印刷機、印刷関連機器、試作特化型受託生産販売
本社所在地:
東京都江東区
創業:
1946年
従業員数:
108人

同社は、戦前に美濃和紙の小売業を営んでいた創業者が、1946年に活版印刷機の製造業を開始。その後、オフセット印刷機製造にシフトし、業績を大きく伸ばしていった。
ところが、桜井社長がトップに就任後、2年目にリーマンショックが発生。当時、輸出が売上の8割を占めていたこともあり、4期連続赤字という大打撃を受けてしまう。その後、海外需要が持ち直し、売上も回復していったものの、同氏はその状況を楽観視していなかった。というのも、印刷業界が抱える「集約型の構造不況」という懸念を拭い去ることができなかったからだ。
「日本の中堅・中小企業は印刷会社がもっとも多いといわれていましたが、その大半はいずれ大手に集約されると考えていました。当社は中小型オフセット印刷機が主力で大型機を製造しておらず、メインターゲットはまさに中小印刷会社。経営環境が厳しくなっていくことが、目に見えていたのです」

また、オフセット印刷技術は成熟期にあり、独自性を出しづらい。どのメーカーも同じような性能の機械をつくるばかり。必然、価格や納期で差別化を図るしかない状況だった。

技術は道具に過ぎない。ニーズに合わせ業容拡大

「このままではジリ貧だという危機感があり、他に真似できないことをしなければならないと。そこで着目したのが、シルクスクリーンです。これはアナログな印刷手法であるがゆえに、用途の幅を広げていける可能性が高い。つまり、お客様の多様な要望に応えやすいと考えたのです」

シルクスクリーンは印刷の原理が単純なため、絵柄の形状だけでなく、インキの厚みも調整できる。つまり、自由度が高い。桜井グラフィックシステムズでは、先代社長が米国ジェネラル社と提携し、リーマンショック以前からシルクスクリーンを導入していた。ただし、当時はあくまでもオフセット印刷機が主力であり、シルクスクリーンは加飾に用途を限定。希望するお客様がいれば対応する程度で、売上も全体の2割ほどに過ぎなかった。しかし、桜井社長はそのシルクスクリーンが持つ応用範囲の広さに着目し、マーケットを印刷業界からハイエンドな工業用途へ転換しようと考えたのだ。

「技術は、お客様の要望を実現するための道具に過ぎません。ところが、オフセット印刷機は技術的に成熟していて、お客様からいただく要件をもとに新たに開発していくものが見当たらない状況でした。他方、シルクスクリーンには、インキと紙に縛られない可能性を感じたのです」

シルクスクリーンは、各工程に多様な技術があり、インキの代わりとなる機能性材料との組み合わせによって、さまざまな要件に対応できる。同氏は、ハード(スクリーン機)・アプリケーション(乾燥・加工工程)・ソリューション(版・ペースト材料)という3つのカテゴリーを組み合わせることで、お客様に寄り添った唯一の最適解を創出できると考えた。実際、シルクスクリーン事業では導電機能や絶縁機能を有する機能性ペーストを使うことで「プリンテッドエレクトロニクス」という新分野の道を切り拓くことに成功している。その結果、ほぼ印刷会社に限られていたクライアントは、半導体や弱電関係、自動車、バイオセンサー、再生エネルギー関連などへ大きく広がっていったのだ。

ただ、桜井社長は「シルクスクリーンの活用範囲を広げてくれたのは、お客様だった」と強調する。その背景には、社長自らお客様のもとを訪ね、直接会話する中で「今、何が必要か」を聞き出すことに徹してきた姿勢があった。その中でシルクスクリーンの特徴を伝えると、お客様のほうから「こんなことはできないか」という要件が出てくるのだという。
「ニーズは企業によって千差万別です。その中には、すでに顕在化しているものもあれば、できないと諦めていることや、お客様すら気づいていない潜在的な需要も眠っています。そういったものをディスカッションしながら見出して、形にしてあげる。そんな実証型の営業を通じて、実績を積んできました」

現在、シリンダー式全自動スクリーン印刷機は世界トップシェアの高い実績とブランド力を誇る。シルクスクリーン事業自体も、総売上の約9割を占める主力事業に成長した。

 

(写真左上)半導体の関連部材である積層セラミックコンデンサ(MLCC)をはじめ、
スクリーン技術を用いてさまざまな電子部品の製造を手がけている。

(写真右上)印刷技術を駆使して電子デバイスを製造する「プリンテッドエレクトロニクス」分野の開拓も進めている。
写真は導電性ペーストを使用した、フレキシブル回路基板。
(写真左下)医療分野でも血糖値センサーなどでスクリーン技術が活用されており、応用範囲が広がっている。
(写真右下)安全性・機能性・快適性が求められる自動車関連でも、ダッシュボードや計器パネルなどで
スクリーン技術が活用されている。

 

試作開発から量産まで伴走する稀有なビジネス

桜井グラフィックシステムズが現在注力している新規事業「試作特化型受託生産」も、お客様の声に耳を傾ける中で生まれたものだ。従前のシルクスクリーン事業で培ってきたイメージを一新し、新機軸の価値提供で自社ブランドを再形成した。まさに英断といえるものだ。

製品サイクルが短くなる一方の昨今、企業にとって新製品開発は生き残るためにも、企業成長を実現するためにも、重要な要素となっている。しかし、魅力的な製品へと成長する可能性のある“種”を見つけたとしても、その試作から量産体制を確立して花開かせるまでには膨大な時間とコストがかかるのが普通だ。しかも、生産設備に投資した後、重大な問題が見つかれば、投資が無駄になるだけでなく、大きな負債を抱えることにもなりかねないというリスクが常にある。そのような事態を避けようと、念には念を入れて吟味を重ねているうちに、他社に先を越されたり、需要をつかみ損ねたりしてしまうことも少なくない。
「世界中のメーカーが生き残りをかけて新製品開発に力を入れるようになれば、試作のニーズが急増するはずです。実際、お客様の要望も増えてきており、これは新たなビジネスになると考えました」

このような背景を鑑みて、新製品開発の試作から上市までを伴走者としてサポートする、桜井グラフィックシステムズ独自の試作特化型受託生産サービスが誕生したのである。

 

(写真上)岐阜県美濃市にある工場。
約35000㎡の広さを誇り、スクリーン印刷機の開発・製造だけでなく、試作特化型受託生産にも取り組んでいる。

 

このサービスでは、同社がクリーンルームや装置、人材などをすべて用意し、お客様はその環境を利用して試作を繰り返しながら製品化の道を探ることができる。製品化の目処がついたら、量産に必要な設備の仕様や組み合わせなどの最適解を見出すところまでサポート。必要な技術を保有する外部企業との連携まで対応する。まさに至れり尽くせりのサポート体制で、クライアントの新製品開発を強く後押しするものだ。さらに、お客様が自社で量産できないということであれば、ファブレスで量産してくれる工場とのマッチングまでサポートするという。
「お客様は当社のクリーンルームと、これまで培ってきたシルクスクリーンのノウハウを存分に活用しながら、設備投資をせずとも新製品開発にシルクスクリーンが適しているかどうかを判断できます。また、あえてサブスク型にしているので、シルクスクリーンが適していないとわかれば、すぐに他の技法を試すなど方向転換できる点も、お客様にとっては開発スピード短縮につながるでしょう」

大きな設備投資をしてしまうと、簡単に方向転換することもできない。そもそも設備投資の決定には、時間がかかってしまうものだ。その点、試作特化型受託生産であれば、初期投資の必要がない。例えば、試作品をつくった後、マーケティングと並行しながら歩留まりを高める製造ラインを追求できるなど、新製品開発のネックになりがちな投資リスクを最小限に抑えられる。
「試作段階から深く協力するため、最終的に完成した生産設備を含むトータルソリューションは特注同様で、当社でしか供給できません。こうしたビジネスモデルは他になく、非常に参入障壁が高いのが特徴です」

単に機械を製造して販売するのではなく、お客様に伴走して試作から量産までの最適なスキームを提供する──まさに、メーカー専一からサービス業への転換を図るとはこのことである。桜井グラフィックシステムズは“真似できないビジネスモデル”を手にすることに、成功したわけだ。そして、それを前面に打ち出すべく、オフセット印刷機製造事業からの脱却やホームページリニューアルがある。自社の業態変革を示す、強い意思表示だ。
「試作特化型受託生産は、お客様の自己実現を一緒に考えていけるビジネスです。このモデルは、お客様が求めているものであると同時に、私たち自身もお客様の要件を実現するため新たな技術開発に挑戦していく必要がある。つまり、お客様と一緒に高みを目指していけるビジネスモデルなのです。それは、お客様のいうとおりに、ただ機械をつくるよりも数段おもしろいでしょう」

 

(写真左)岐阜工場内にある全長60mのクリーンルームでは、半導体加工テープの試作特化型受託生産を行っている。
現在は3号棟まで稼働しており、今後も需要の増加に伴い、さらなる増設を見込む。
(写真右)クリーンルーム内にはスクリーン印刷機をはじめ、多種多様な加工機が揃っている。
お客様からの要望があれば、桜井グラフィックシステムズの設備投資で、製造ラインを提供する仕組みだ。

真似される程度の技術力を恥じなさい

桜井社長が他社には真似できないビジネスを追求し、サービス業への転換を模索するようになったのにはきっかけがある。以前、中国の展示会に、同社の製品にそっくりの中国製印刷機が出品されていた。これを許すわけにはいかないと、中国人パートナーに訴訟の相談をしたところ、「中国企業に真似される程度の技術開発しかできていない、自分を反省しろ」といわれたそうだ。
「受け入れがたいアドバイスでしたが、同時に、彼のいうことも一理あるなと考えました。結局、訴えることはなく、その結果、他が真似できないビジネスというものを強く意識するようになったのです」

ただ、事業戦略を180度変えるとなると、その変化に戸惑う社員も出てくるはずだ。実際、「そこが大きな課題だ」と桜井社長も語る。
「なぜ変化が必要なのか、理解できなかった社員は、会社を離れていきました。それは、自分の力不足だと受け入れるしかありません。ですが、会社に残ってくれた社員や新たに加わってくれた社員とは会話する機会を増やし、私の考えを少しでも理解してもらえるように話しています」

同氏は何事も円滑に進められるよう3カ月先までスケジュールを組み、その中には社員との会食がいくつも含まれている。また、朝礼で話す内容については、必ず事前に原稿を作成して中身を吟味するという。「伝わらないと意味がない」ため、後日、無作為に選んだ社員に理解度を確認するという念の入れようだ。

桜井社長は「3年と同じことは続かないため、3年後は他が真似できない新たなビジネスを始めているかもしれない」と語る。ただ、大きな事業転換を成功させるには、目指す方向性に共感し、一緒に走ってくれる社員の存在が欠かせない。今後は真似できないビジネスの追求とともに、インナーブランディングにも取り組んでいく必要があるだろう。

 

機関誌そだとう216号記事から転載

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