中小企業白書から読み解く経営のヒント

令和4年度(2022年度)の中小企業の動向①

 

2023年版中小企業白書(以下、「白書」という。)が4月28日に閣議決定されました。白書では、中小企業の動向に加えて、中小企業が変革の好機を捉えて成長を遂げるために必要な取組等について、企業事例を交えて分析を行っています。今回は、中小企業の動向や中小企業を取り巻く経営環境について、白書第1部から抜粋して解説します。

物価高騰が業績を左右

まず、中小企業の業況を確認します。図1は企業規模別に売上高の推移を見たものです。これを見ると、コロナ禍からの社会経済活動の正常化が進みつつある中、中小企業の売上高は、感染症流行前の水準に戻りつつあることが分かります。一方、業種別に消費支出の推移を確認すると、宿泊や交通においては感染症流行前の水準には戻らず、業種によっては厳しい状況が続いていました。

 

 

次に、中小企業を取り巻く経営環境として、物価高騰により、収益減少等の影響を受けている状況について確認します。物価動向を捉える統計として、生産者の出荷または卸売段階における財の物価の動きを反映する国内企業物価指数と、小売段階の物価の動きを反映する消費者物価指数が挙げられますが、国内企業物価指数は2020年12月から、消費者物価指数は21年1月から上昇に転じました。特に、国内企業物価指数についてその変動要因を確認すると、22年から23年初めにおいて、主に「電力・都市ガス・水道」が上昇に寄与していました。

こうしたエネルギー・原材料価格の高騰による企業業績への影響について、売上高と経常利益に分けて見たものが図2です。売上高へのプラスの影響をいくらか受けている中小企業の割合は、2年前から一定程度増加し、原材料・資源価格高騰を追い風に売上高を伸ばしている企業も見られます。一方、マイナスの影響を受けている中小企業の割合も増加しており、経常利益においては、3年間を通じてマイナスの影響がさらに広がっていたことが分かります。

 

価格転嫁の促進は重要

続いて、中小企業の雇用をめぐる状況について確認します。業種別に従業員の過不足状況を見ると(図3)、13年第4四半期にすべての業種で従業員数過不足DIがマイナスとなり、その後は人手不足感が高まる方向で推移しています。20年第2四半期には、この傾向が一転して、急速に不足感が弱まったものの、足下では、いずれの業種も従業員数過不足DIはマイナスとなっており、中小企業の人手不足感が強くなっています。

 

 

こうした人手不足が強まる状況下で、中小企業の賃上げの動きは進みつつあります。図4 を見ると、感染症流行後、所定内賃金について、賃上げを実施している企業の割合が増加しています。一方、22年における「賃上げを実施」と回答した割合は半数程度にとどまっており、賃上げが難しい企業も一定程度存在することが分かります。

 

 

賃上げの促進に向けて、その原資を確保する上でも、価格転嫁の促進は重要な取組の一つです。特に、中小企業の価格転嫁力はこれまで低迷しており、大企業製造業と中小企業製造業における労働生産性の伸び率についての要因分析からもその状況が見て取れます。より具体的には、中小企業の実質労働生産性の伸び率は、大企業と遜色ない水準である一方、価格転嫁が十分にできていないために、結果として労働生産性の伸び率が低迷しています。

このように、価格転嫁が中小企業における構造的な課題である中で、足下における価格転嫁の状況を見ると(図5)、22年3月と比較した同年9月における価格転嫁率の状況として、全体コストについては5ポイント程度改善しています。一方で、労務費については上昇幅が非常に小さく、エネルギー価格については転嫁率が減少しています。

 

 

さらなる価格転嫁の進展を目指して、中小企業庁では、具体的な価格転嫁対策として、①「価格交渉促進月間」による取組、②下請Gメンや自主行動計画等による取組、③パートナーシップ構築宣言の拡大・実効性向上等を実施してきました。価格転嫁が取引慣行として定着するように、引き続き、中小企業がコストを適切に価格転嫁できる環境の整備に取り組んでいきます。

以上、今回は白書第1部から、中小企業の業況と中小企業を取り巻く物価高騰と人手不足、そして経営環境を踏まえた賃上げと価格転嫁の取組状況について解説しました。次回も引き続き白書第1部を取り上げ、生産性向上に向けた設備投資やイノベーションについて、カーボンニュートラルの動向も交えながら解説します。

 

中小企業庁 事業環境部
調査室 調査係長
戸田健太
(2022年4月より当社から出向中)

 

 

機関誌そだとう215号記事から転載

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