新境地への一手「社外連携」戦略

適材適所を追求し、社会問題に光差す

~「研究」「開発と製造」、そして「販売と市場調査」~

CASE①株式会社日本眼科医療センター

 

「今回、東北大学とQDレーザとの三者連携によって、『MEOCHECK つきいちし~や』(以下、つきいちし~や)という初の自社オリジナル商品を手にし、新たな事業の柱となり得るものができました」
こう語るのは、日本眼科医療センターの郡山知之社長である。

 

郡山知之社長

株式会社日本眼科医療センター
主な事業内容:
眼科用医療機器・器具販売、保守・修理・メンテナンス
本社所在地:
宮城県仙台市
創業:
1974年
従業員数:
40人

日本眼科医療センターは眼科用医療機器の販売事業を主軸とするほか、
アフターメンテナンス事業も展開している。

同社は眼科用医療機器の専門ディーラーとして、東北地方を地盤に事業を展開。地域の国公立病院や開業医などとの信頼関係を築きながら、堅実に事業を成長させてきた。

そんな中、冒頭の三者による社外連携が始まったのは、2020年の秋頃だ。懇意にしている東北大学眼科学教室の教授から、「眼疾患を早期発見できる検査機器を、開発できる機器メーカーを探している」と打診を受けた。

さまざまな眼疾患のうち緑内障は、症状が出てから病院へ行っても、病気の進行を抑えることしかできない。ところが、多くの患者は疾患に気づかないまま症状が悪化してしまうため、発見が遅れるケースが非常に多いという問題があった。
「40歳を過ぎたら、20人に1人は緑内障です。これはしっかりとエビデンスもある事実。しかし、片方の視野に欠損があったとしても、両目で見たとき、人間の脳は映像を補正してしまいます。そのため、全体がしっかり見えていると錯覚して、疾患に気づけないのです」

40代といえば“働き盛り”ともいわれ、仕事や生活が忙しい時期でもある。多少、見えにくくなったとしても視力が落ちたと考える程度で、病院へ行って検査しようとまでは考えないことがほとんどだろう。
「例えば、白内障だと視野に白い靄がかかったようになり、夜間は視力がかなり落ちてしまいます。また、緑内障などで視野が欠損しているところに車や人がいても、見えないわけです。毎日のように自動車事故が起きていますが、その原因の何割かに、眼疾患が関係しているのは間違いないでしょう。だからこそ、より多くの人が気軽にセルフチェックでき、早期に眼疾患に気づく環境を整えなければなりません。つきいちし~やは、そのための眼検査機器です」

現在、病院などにある眼検査機器は1台500~600万円の高価なもので、気軽に購入できるものではない。加えて、そうした機器を使って検査を行うには、知識を備えた専門家のサポートも欠かせないという。

たとえ視力が落ちても、目に疾患がなければレンズによる矯正で、視力1.0以上は出るといわれている。逆に、レンズを使っても1.0未満の場合は、目に何らかの疾患がある可能性が高い。従来機器で検査をする際には、視力を測ったうえで、もっとも効果的なレンズを使って矯正してから、実施する。それには、専門的な知識を要するわけだ。

しかし、そもそも“病気”だと認知することへの不安や日々の忙しさから、病院へ行かないという人が少なくない中、病院でしか検査ができないのでは意味がない。誰でも、簡単で手軽にセルフチェックできる機器が必要だ。そこで郡山社長が注目したのが、QDレーザの技術だった。
「QDレーザが持つレーザ網膜投影技術を使えば、網膜に直接レーザを当てて検査用の映像を見せるため、目の中にあるレンズ(水晶体)の機能に左右されません。つまり、視力を矯正して検査を行う必要がないのです。それによって、緑内障や白内障などによる視野欠損の有無を、正確にチェックすることができます」

QDレーザが今回のプロジェクトに参画した理由はそこにあった。同社も非常に前向きで、連携はスムーズに動き出す。
この開発プロジェクトは、国が主導する「COI-NEXT」というプロジェクトに採択されている。これはSDGsに基づいて、未来のありたい社会像を実現するためのバックキャスト型研究開発と、産学官共創システムの構築を一体的に推進するもの。つまり、社会的意義も高く評価されているわけだ。

何度も会話を重ね、完成形へ迫っていく

日本眼科医療センターと東北大学、QDレーザの三者連携が、なぜうまくいったのか。その理由の1つは、「それぞれの役割が明確だったから」だと郡山社長は語る。
「研究を重ね、つきいちし~やの有用性を示すエビデンスを積み上げるのが東北大学。製品を開発、製造するのがQDレーザ。当社は販売を担うとともに、ユーザーに近いポジションを活かして市場調査やテストを行い、その結果をQDレーザにフィードバックする役割を果たしました」

 

 

日本眼科医療センターは開発初期、つきいちし~やのターゲティングから深く関与している。当初、ターゲットとして想定していたのは高齢者だった。該当する年齢層に向けてアンケート調査を実施したところ、病院に対する消極的な姿勢が浮かび上がってきたという。

「検診に行かない」と回答した人が非常に多く、その理由の約9割が「病気が見つかるから」だったのだ。これでは、簡易的な検査で病院に行くことを勧めたところで、行かない人が多数を占めるだろうと思われた。そのため、働き盛りの40代から65歳までをターゲットに変更する。

また、仕様についても郡山社長には譲れないポイントがあった。それが「両眼開放型」にすることだ。眼科などで従来機器を使った検査をする際、片方の目はガーゼなどをはって目隠しすることが多い。ここに課題があると感じていた。
「片目を遮蔽すると、利き目の状態によって残像が残ってしまうのです。そのために、視野が暗くなってしまうことがあります。ブラックアウト現象と呼ぶのですが、これが発生すると正確な検査結果を得ることができません。専門家がいるのであれば、計測しなおすという判断もできるでしょう。しかし、セルフチェックを前提とするならば、両眼開放型でなければならないと思ったのです」

両眼開放型──両目を開けた状態でレンズをのぞき、片目だけに映像を投影する仕様にすれば、検査を受けている人は片目をガーゼなどでふさぐ煩わしさもなく、ブラックアウト現象も防ぐことができる。

展示会に出展し、来場者に使ってもらうことで集めた、
ユーザーが感じる生の声を開発に活かすのも、
日本眼科医療センターの役割。

日本眼科医療センターは健康フェアなどに試作機を持ち込み、来場者に使ってもらいながら不満や不便に感じた部分を収集した。そのデータも加味しながら、QDレーザと何度も会議を重ねることで、小型化、軽量化が図られ、現在の形へと落ち着いたのだという。

QDレーザは技術面から製品の仕様や形状を発想し、日本眼科医療センターはユーザーの使い勝手を徹底的に追求した。ベクトルの異なる観点であるがゆえ、なかなか意見がまとまらないこともある。だからこそ、何回も会話が必要だった。現在も毎月1~2回は定例会議で意見を交換しながら、改良を続けている。
「こちらの思っていることは、簡単に伝わらないことを学びました。販売主体の当社と、開発に重きを置いているQDレーザ社では考え方が違って当たり前で、その溝を埋めるには、密なコミュニケーションをとっていくしかないということでしょう」

各方面から注目を浴びる画期的な仕組みと操作性

こうして完成したつきいちし~やは航空機の操縦かんのような形をしており、上部先端部分にレンズが設置されている顕微鏡のような構造だ。検査するときはレンズをのぞき、ポイントが光ったときに手元のトリガーを引くだけ。映像と音声ガイドに従って、誰でも簡単にセルフチェックできる仕組みになっており、片目1分程度で終わるのも特徴的だ。チェック後にプリントされるシートには、目の推定年齢とともに評価点数が記されるパターンと、検診で用いられるABCDEの5段階評価を用いて、結果次第で眼科への相談を促す音声が流れるパターンがある。

 

(写真上)「MEOCHECK つきいちし~や」の本体とモニター。映像と音声に従うだけで、簡単に検査ができる。
(写真左下)ショッピングモールでブースを展開し、一般のお客様にも体験してもらう。
その場で簡単に、1分で結果が出るからこそ可能な取り組みだ。

(写真右下)つきいちし~やによる診断結果は、その場でプリントされる。
どこに問題があるのか、視角的にわかりやすいのも特徴的。

 

非常に使いやすく、タクシー会社に協力してもらい12人ほどで実証実験を行ったところ、うち3人に眼疾患のおそれがあると判明した。

当初、つきいちし~やの販売先は、タクシー会社や運送会社などを想定していたが、今はメーカーや一般企業でも福利厚生として活用してもらいたいと考えている。さらに、最近では検診センターやドラッグストアなどからも問い合わせがきているほか、まったく想定していなかった眼鏡店や眼科医からも、試してみたいと声をかけられているそうだ。

また、東北大学ではつきいちし~やを活用し、セルフチェックで緑内障かどうかの判断を可能にする研究が進む。今までになかった“眼疾患の早期発見”につながる機器として、各方面から注目されているわけだ。

製品開発以外にも、もたらした価値

郡山社長は、今回の社外連携が「社員のモチベーション向上ももたらした」と微笑む。
「つきいちし~やを広く知ってもらうために、テレビCMで社名とともに認知を高めるなどの、広報宣伝活動にも力を入れています。その副次的な効果として、社員のモチベーションを高めているようです」

医療機器のディーラーとしては、病院や医師に認知されればよく、これまで、いわゆる広報宣伝活動は行ってこなかった。しかし、つきいちし~やは一般消費者の認知度を高め、眼検査に少しでも興味を持ってもらわなければならない。そのユニークなネーミングも、目にした人、耳にした人に「なんだ、あれは?」と思ってもらい、少しでも記憶に残ってほしいという思いが込められている。

宣伝活動の一環として、仙台空港の保安検査場入り口に広告を出したり、地元Jリーグチームのスポンサーになって、本拠地のスタジアムに看板広告を出したりと、初の試みもしているそうだ。
「いずれも社員から出たアイデアです。社名が流れるテレビCMは家族にも喜んでもらえたと、うれしそうに話す社員も目にしましたよ」

 

仙台空港の保安検査場入り口に出した広告。
明るい黄色のビジュアルと、ユニークなネーミングに目を引かれる。

 

「眼科医療のサポーターとして
常に方向性を現し局地を目指す」

という意味が込められた会社ロゴ。

今後、医療機器卸売業界では事業環境が苦しくなっていくと予想され、合併が進んでいるという。現在、眼科領域では利益が確保できているが、長い目で見ればどうなるかわからない。そのため「利益が出ているうちに、新たな事業の柱をつくっておきたい」と郡山社長は強調する。足元では、一人でも多くの人が眼疾患を早期発見できるよう、代理店網の構築など、つきいちし~やの普及に尽力している。そして今回の社外連携によって、卸売業を主軸とする日本眼科医療センターが自社製品を持つという、長年の夢を実現するヒントも手に入れたと続ける。
「自社で一から製品を企画・開発するには、社内に技術者を抱えて、生産設備を整えなければならないと思っていました。でも、つきいちし~やのプロジェクトを通じて、他社の力を借りて実現する方法もあると知ったのです。自社で企画・設計までできれば、設備投資や時間などのコストを抑えながら、自社製品をつくることができるとわかりました」

日本眼科医療センターにとって、社外連携はさらなる成長のヒントを多くもたらしたといえるだろう。製品開発に留まらない、会社を発展させる幅広い可能性が見えた。

 

機関誌そだとう215号記事から転載

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