中小企業白書から読み解く経営のヒント

経営者の経営力を高める取組


中小企業の成長可能性を引き出すために

 

2022年版中小企業白書(以下、「白書」という)では、「事業者の自己変革」をテーマに、中小企業が自らの潜在的な成長可能性を引き出すために必要と思われる取組について考察しています。今回はその中から、経営者の経営力を高める取組を取り上げます。

中小企業の「経営者」に着目して分析

前回も解説した通り、白書では、中小企業の成長に向けた「人的資本への投資」の重要性について取り上げていますが、経営者についても、会社の方針などの意思決定を行う場面を見据えて、一従業員とは異なる知識・スキルを高めていくことが重要と考えられます。企業の成長に寄与する経営者の知識・スキルは多様ですが、その一端として経営者に求められる知識・スキルをいくつか取り上げた上で、企業業績や学習時間との関係性等について白書では分析しています。今回はその内容を抜粋して解説します。

意図的に学習機会を設けることの重要性を示唆

まず、経営者の経営に関する学習時間に対する自己評価について確認します(図1)。これを見ると、「十分な時間を確保できていない」が6割超となっており、多くの経営者が経営に関する学習時間を十分に確保できていないと認識していることがわかります。

 

 

次に、経営方針別に、経営者の経営に関する学習時間確保の状況を見てみます。図2の通り、「売上拡大」や「利益拡大」といった前向きな経営方針を採る経営者は、学習時間を意図的に確保している割合が高いことがわかります。

 

 

それでは、経営者の経営に関する学習時間確保は、企業の業績にどのような影響を与えているのでしょうか。図3を見ると、経営者が学習時間を意図的に確保している企業のほうが、意図的に確保していない企業に比べて、売上高増加率が高い傾向にあることがわかります。経営者が意図的に経営に関する学習時間を確保し、経営力を高めることで、企業の成長につながることが示唆されます。

 

企業の成長を実現していく上で経営者が高めるべき要素

ここからは、経営者にどのような知識・スキルが必要なのかを具体的に確認していきます。図4は、売上高増加率の水準別に、経営者に求められる6つの知識・スキルの高さについて見たものです。ここでいう6つの知識・スキルは、「①臨機応変に対応し、意思決定する力」「②傾聴し、人を導く力」「③理論的に考えて本質を見抜き、適切に表現する力」「④計数管理・計画能力」「⑤問題意識を持ち、自己変革する力」「⑥業界に精通する力」に分類しています。これらは、学術的に提唱されるスキルなどを参考に、経営者に必要と仮定した35の資質を統計的手法に基づいて分析し、共通性が認められる資質ごとに今回類型化したものです。これを見ると、売上高増加率の高い企業群では、それぞれの知識・スキルについても高い傾向にあり、企業の成長を実現していく上で経営者が高めるべき要素であると考えられます。

 

 

最後に、6つの知識・スキルの高さの水準別に、経営に関する学習時間を見てみます。図5の通り、いずれの知識・スキルについても水準が高い経営者ほど、学習時間が長い傾向にあることがわかります。こうした経営知識・スキルを高めていくためには、日々の経営の中で経験値を高めていくことも重要ですが、経営者自身が意図的に経営に関する学習時間を確保し、社内外の学習機会を活用することが有益と考えられます。

 

 

学習機会を通じて、顕在的な課題解決だけでなく、経営者自身が気づいていない潜在的な課題を認識することも想定されます。現時点で必要性を感じていない経営者においても、一度立ち止まって自身の知識・スキルの状況を見直し、不足する分野や伸ばしたい分野について学習してみることも有益ではないでしょうか。

 

中小企業庁 事業環境部
調査室 調査係長
戸田健太
(2022年4月より当社から出向中)

 

 

機関誌そだとう213号記事から転載

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