投資先受賞企業レポート
「第20回 勇気ある経営大賞」奨励賞

理想を追い求め、たどり着いた極致

問題意識が、先を見通すチカラになる……

ノーラエンジニアリング株式会社

 

建物や工場などの設備において、あまり人目に触れない存在だが必要不可欠なのが、配管だ。身近なところでは、私たちが毎日使う水を各家庭に供給するライフラインとして、また、工業生産に使われる熱湯・薬剤などを工場内で安全に運搬する装置でもある。
かつて、こうした配管には、いくつかの問題点が存在した。それらを解決する素材に早くから着目し、業界で先駆者的な存在となったのが、東京都千代田区に本社を置くノーラエンジニアリングだ。

 

堀田幸兵社長
1970年生まれ。95年甲南大学卒業後、住友商事に
就職し、鋼管部で6年間勤務。99年、サンエツ
(現ノーラエンジニアリング)に入社し、2016年
に現職。

ノーラエンジニアリング株式会社
主な事業内容:
衛生・空調用プレハブ加工管、パッキングの製造販売など
本社所在地:
東京都千代田区
創業:
1991年
従業員数:
160名

 

従来、一般的な配管では、「炭素鋼鋼管」と呼ばれる鉄管に亜鉛メッキを施した鋼管(以下、鉄管)が多く使われていた。しかし、かつては水道水の塩素濃度が今より高かったこともあって、鉄管内部のメッキが浮き出て目詰まりを起こしたり、鉄管の錆びが水道に混ざり込んでしまい、“赤水”と呼ばれる赤褐色の水が蛇口から出てきてしまったりという現象が起きていたのである。

そうした問題に対して、内側を樹脂でコーティングした配管が開発されたものの、「加工・施工に時間がかかる」「管端部分の腐食が進みやすい」などの課題が新しく出てきた。
それらをすべて解決するべく、「錆びない鉄」を追い求めていた同社が目を付けた素材が、ステンレスだ。ステンレス配管は従来の鉄管と比べて腐食しにくく、熱湯や薬剤にも耐久性が高いのだという。

常識にとらわれない独自の製品と技術

ノーラエンジニアリングの堀田幸兵社長は、自社の強みについて次のように語る。
「設立以来、30年以上にわたって蓄積してきたノウハウと経験値があります。他社製品の不具合で、当社に相談がくるケースも少なくありません。何が原因かを調べると、配管の腐食による漏水事故が大半です。もちろん、ステンレス配管ではほとんど漏水事故はありません」

ただ、ステンレス配管加工だけなら、競合もいるだろう。同社が持つ真の強みは、「フェライト系ステンレス配管」という独自製品があること。そして、施工現場での品質と施工性の向上を実現した「ノーラ工法」「CFジョイント」などの加工・施工法を開発したことだ。

 

すべての製品が受注生産で、寸法・形状は一品一葉になる。
そのため、一つひとつ丁寧な検品作業が求められる。

 

今回の勇気ある経営大賞「奨励賞」受賞理由には、「JIS規格を打破するCFジョイントや超耐久ステンレス配管の開発などによる、独自基盤確立への挑戦」とある。常識にとらわれず、オンリーワンの製品や技術を生み出した背景には、チャレンジし続けるという強い意思と、たゆまぬ努力があったことは間違いない。
その結果、ノーラエンジニアリングは大きく成長することとなる。その過程でどのような苦労と障害があり、どう乗り越えたのだろうか。

「1970年代のステンレス配管は肉厚でコストが高く、実用的ではありませんでした。そこで、薄さを重視した製品が開発され、75年に水道用配管としてJIS規格化されたのです。当社もノーラエンジニアリングの前身であるサンエツ時代、81年にステンレス部門を新設し、JIS規格に沿った薄いステンレス配管の加工をするようになりました」

ニッケルの異常高騰が、革新的な配管を生み出す

配管を接合する際に使う継手部品。左が従来品で、
右が独自開発の「CFジョイント」。

同社がいち早くステンレス配管に取り組み始めることができたのは、当時から鉄管の耐久性や赤水などに目を向けていたからである。そうした問題を仕方がないことではなく、解決すべきだと捉え、将来的に、必ずステンレスの時代がくると予見したのだ。この判断が、ノーラエンジニアリングの発展を占う試金石となる。さらに、ステンレス配管は溶接工程の管理が難しいことから、加工製造と施工の分業化が進むと考えた。

「分業化が進むほど、施工側が製造業に求める役割は拡大していきますから、従来の鉄管よりもステンレス配管市場のほうが、当社の技術力を発揮できると判断したのです。また、同時期にコンクリートの強度が上がり、建築物の寿命が長くなりつつありました。配管は、建物と同様のライフサイクルを求められます。そのため、耐久性に優れているステンレスが有利になると予測しました」

まさに、先見の明だ。ここで一歩踏み込んだ勇気が、同社の未来を明るく切り拓いた。狙いはある程度当たり、関西ではビル建築にステンレス配管を使い始める。ところが、東京では容積率などの規制緩和が進んだことでスクラップアンドビルドが激化し、ステンレス配管の需要は増えなかった。なぜなら、鉄管に比べて高価であるため、短期間での建て替えが繰り返される環境では、コストが見合わないからだ。薄型化したとはいっても、配合するニッケルは希少金属で値段が高い。市況が不安定だったことも、マイナスに働いた。

そして2007年、ステンレス配管普及を阻害する決定的な事態に陥る。ニッケルの価格が跳ね上がる、異常高騰が起きたのだ。ニッケルは、ステンレス鋼の表面に形成される不働態化被膜の損傷を瞬時に再生させる機能があり、加工性も非常によくなるので、厳しい環境下で使用されるステンレス配管には必須の物質だったが、あまりにもコストがかかり過ぎるため使うことができない。けれども、ノーラエンジニアリングの技術者たちは諦めなかった。100種類以上あるステンレス鋼を検討し、ニッケルを使わなくても品質を保持できる、代替素材を探したのである。

「長きにわたる研究の結果、自動車排ガス用マフラーに使われていた、ニッケル不使用のフェライト系ステンレスにたどり着いたのです。その後、建築・設備用に使えることも実証し、11年には物品の形状や構造の考案を保護する実用新案を取得しました。いざ、材料を供給してくれる鉄鋼会社を探し始めたのですが、そこで思わぬ壁にぶつかったのです」

同社の要望に対して、いくつかの企業は前向きに検討してくれたものの、折悪しく国内高炉メーカーの合併が相次ぎ、余力がないから協力できないと次々に断られた。最終的に協力を得た韓国の鉄鋼会社は、生産品質がなかなか安定しない。技術指導や価格交渉を何度も行い、15年にようやく市場投入に至る。耐久性や軽量性は従来のステンレス配管と変わらないのに、コストを抑えられる理想の製品は、業界を驚かせた。サンエツ時代にステンレス部門を立ち上げてから34年、「錆びない鉄」を求め続けた努力と技術が、ついに1つの答えを導き出したのだ。

施工法にも磨きをかけ、トップシェアを確立!

新素材を使ったステンレス配管の開発成功に先んじて、ノーラエンジニアリングでは配管の品質向上と工期短縮を実現する施工法「ノーラ工法」が完成していた。これは配管と継手を溶接してつなげる従来の工法に対し、管端を折り返して帽子のつば状に加工し、配管同士をボルトとナットで接合することで溶接を最小限にする方法だ。その後もさらに改善と開発を続け、07年に「CFジョイント」という配管の接合を省力化する独自の継手部品を開発する。それまでのJIS規格部品よりも小型で重量が半減、接合に必要なボルト数も半分で、スピーディーに施工することができるようになった。しかも、スパナ1本で締め付け可能なので、施工者からは大好評だ。今では建築・設備分野において、同社のCFジョイントはトップシェアを誇る。

ステンレス加工、ステンレスプレハブ加工を行う、
福島県の二本松工場。

常に技術を磨き、さらなる高みを目指すノーラエンジニアリングの今後について、堀田社長はこう語る。
「私たちはこれまで、人手不足に悩む施工現場の負担を少しでも減らすため、省力化に努めてきました。今後は、BIM(コンピュータ上で建物の立体モデルを構築する手法)と当社の生産システムを連携させ、情報共有化によるさらなる生産性向上を進めていきます」

また、今回の受賞に際して、同氏はノーラエンジニアリングの歴史を自分なりに整理したそうだ。
「やはり、これまでのようにチャレンジし続けることが大切だと再認識しました。挑戦自体が、成長の根源です。これからも従業員とともに、やりたいことを突き詰めていきたい。施工者の目から鱗が落ちるような、画期的な商品開発をしたいですね」
今後も業界、ひいては社会全体を驚かせるような製品や技術を開発してくれることが、期待できそうだ。

 

東京中小企業投資育成へのメッセージ

今回、審査員の前でプレゼンテーションする機会を得て、これから歩むべき道が明確になりました。貴重な機会をつくってくださった投資育成さんには、感謝しています。企業に投資する組織はたくさんありますが、母親のように成長を支え、見守ってくれるのは投資育成さんだけです。さまざまな面から、私たちの企業価値を高めてくれる存在だとも思っています。

投資育成担当者が紹介! この会社の魅力

業務第一部 部長代理
会田孝広

フェライト系ステンレス配管と接合部品は、低コストで長寿命、軽量なため施工性も向上するといった特徴を持ち、建物の維持管理コスト低減やCO2削減、建設現場の人手不足対策にもつながる、まさに「売り手よし、買い手よし、世間よし、働き手よし」の四方よしの製品です。さまざまな建物への導入が進むよう、微力ながら私たちもお手伝いしてまいります。この度のご受賞、誠におめでとうございます!

機関誌そだとう212号記事から転載

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