SBIC’s Column

迫る「2025年問題」。どう向き合うのか

超高齢化社会を迎えるにあたって、今、企業が取り組むべきことは何か。
都民シルバーサポートセンターの信夫武人理事長に話を聞いた。

 

NPO法人 都民シルバーサポートセンター
理事長 信夫(しのぶ)武人
司法書士法人に17年間勤務し、主に不動産登記、
相続登記を担当。高齢者の方々や、
そのご家族に
まつわる複雑な問題を、さま
ざまな専門家が協力
しながら解決していく
日本シルバーサポート協会
の活動に感銘を
受け入社。その後、NPO法人都民
シルバー
サポートセンターを立ち上げ、現職。

全人口における約18%が、満75歳以上の後期高齢者──2025年、日本はそんな超高齢化時代を迎える。社会には、そして企業には、どのような影響を与えるのだろうか。

NPO法人都民シルバーサポートセンターの信夫武人理事長は、「生産年齢人口の減少と要介護者の増加により、就労者への経済的負担が大きくなる」ことを挙げる。

「税収や社会保険料を支えなければならない就労層への負荷増大は、避けて通れない課題です。中小企業も金銭面だけではなく、高齢者の就労先の受け皿として、地域貢献を担うことが必要になります」

 

「ビジネスケアラー」の増加、加速する人材不足

また、生産年齢人口が減る分、人材確保がより難しくなってくる。さらに、仕事と介護を両立する「ビジネスケアラー」も急増し、中小企業では人手不足に拍車がかかる恐れがあると、信夫理事長は指摘する。
「核家族化と高齢化、少子化が重なり、1人で複数人の介護をしている方も増えていきます。柔軟な勤務形態や、突然の休暇をフォローする体制がないと、今まで通りに働くことは困難でしょう。精神的にも落ち着かず、生産性が低下する可能性もあります。適切に対処しなければ、本人はもちろん、企業も大きな打撃を受けてしまうのです」

親の介護が始まる働き盛りのミドル世代は、職場の中核を担っていることも多い。そうした人材の生産性が落ちれば、企業に及ぼす影響が大きいことは想像に容易いだろう。
仮にサポート体制ができていたとしても、介護に関する支援はなかなか活用されないことが多いと、信夫理事長は語る。その理由のひとつとして、介護する当事者が、職場で話題にしないことが考えられるという。
「なかなか触れにくいテーマだという意識があるためか、誰にも相談できず、一人で抱え込んでしまうケースは非常に多いです」

育児と介護は異なる。一人で抱え込まないで!

また、よく育児との両立と混同されることもあるが、全く違うものであるという認識を持っておくべきだ。
「育児は子どもが日増しに成長する喜びがあり、かつ見通しがついて、話を共有しやすい。しかし、介護は親が衰えていくつらさや無念さを痛感する上、いつまで続くかもわからないため、精神的にも追い詰められてしまうのです」

先が見えず、期間が決まっていないため、介護というワードを出すこと自体が仕事においてはリスクだと思ってしまう人もいるそうだ。しかし、状況を把握できないまま、当人が体調を崩してしまったり、離職につながったりしてしまうのは、企業にとって最も避けたいことである。実際、高齢化社会が抱える、さまざまな悩みを受け付け、解決の手助けをしている都民シルバーサポートセンターには、こうした事情を抱える多くの人が訪れるという。
「特に、働き盛りの方が相談に来るときは、本当に切羽詰まっていて、疲弊している場合がほとんどです。『話すだけで気が楽になった』という人も多く、『誰にも言えないが、実は仕事にも影響が出てきている』と打ち明けられることもあります」

例えば、親を介護施設に入居させようと、インターネットで空きを探し当てても、連絡してみると実際には埋まっているなど、ネット情報に振り回され、本当に欲しい情報が見つからないことは珍しくない。
「この場合は施設紹介会社があり、そこを経由すれば比較的スムーズに空きが見つかります。そのような情報を知らない人も多く、こうした小さな解決への糸口を見つけるだけでも、日々の生活や仕事に安心して専念できるようになると思います」

信夫理事長によると、よくあるのが「何を、どこに、どう相談していいのかわからない」というケースだ。介護が必要になったときや亡くなった際の手続きなど、それぞれ専門家がいることは知っているものの、その情報収集だけでも、仕事の合間に行うことは大変だ。もちろん、行政機関にも相談できるが、平日に勤務している方には難しいのが現実だ。

的確なアドバイスは、外部機関の活用で

では、企業に求められる具体的な取り組みは何か。もちろん、介護休暇や時短勤務などの制度設計や、柔軟な働き方を推進することは基本であり、とても重要だ。
「介護をしていても仕事を続けたい、という方はたくさんいます。お互い遠慮することなくタイムスケジュールを調整しあえる職場環境づくり、人間関係づくりが、いざというときのセーフティネットになるでしょう」

加えて信夫理事長が勧めるのが、外部機関と連携し、アドバイスをくれる窓口があるという情報を全社的に広く啓蒙しておくことである。
「社内で相談できる体制ができれば、それがベストです。しかし、専門的な内容も非常に多く、そのすべてをフォローするのは難しいと思います」

確かに、上司や人事は、企業の制度やルールについてなら答えることができるだろう。ただし、その人に介護経験がないと、その先を見据えた的確な助言をすることは難しい。
「だからこそ、外部機関をうまく活用してほしいのです。行政や包括的な支援を行う団体、NPO法人などと連携し、社内にそのような存在やサービスを周知することが肝要です。NPO法人では、福祉の支援や精神的なサポートを実施している団体も数多くあり、我々も従業員向けの研修を無料で実施しています。サポートしてくれる体制があることを知っていれば、安心して働ける職場づくりにもつながるのです。企業にとっても、人材流出などの防衛策になりますし、今後の採用面でもプラスに働くでしょう」

2025年問題は、もうすぐそこまで迫ってきている。介護は育児と異なり、誰もが、必ず直面する問題だ。それに備え、今から準備を進めておかなければ、想定外の混乱を招いてしまうかもしれない。何より、従業員が安心して働ける環境をつくることは、経営者の使命である。

 

機関誌そだとう210号記事から転載

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