中小企業白書から読み解く経営のヒント

事業継続力と競争力を高めるデジタル化

感染症流行下で加速したデジタル化の機運

感染症の流行は、企業を事業継続の危機にさらすとともに、我が国においてデジタル化の重要性を再認識させました。図1を見ると、感染症流行前後でデジタル化に対する優先度は高くなっており、感染症流行後において「事業方針上の優先順位は高い」もしくは「事業方針上の優先順位はやや高い」と回答する企業が6割を超えています。感染症の流行がデジタル化の重要性を再認識させる一つの契機となっていると言えます。

次に、働き方改革の側面からデジタル化の動向を確認します。図2を見ると、感染症流行後に取り組んだこととして、「Web会議」を挙げる割合が最も高く、感染症流行を受けて急速に広まったことが確認されます。他方で、「テレワーク、リモート勤務」の取組も進んでいるものの、「文書の電子化」や「社内の電子決裁」などは進んでおらず、柔軟な働き方の環境整備に向けては、様々な課題が散見されると考えられます。

半数の中小企業が悩むアナログな文化・価値観

では、中小企業はどのような課題を抱えているのでしょうか。図3を見ると、デジタル化の効果を実感できなかった企業では、「アナログな文化・価値観の定着」を課題とする企業が半数を超えています。同様に、デジタル化推進に向けた「明確な目的・目標が定まっていない」割合も効果を実感する企業と比べ、高い傾向にあります。アナログな組織文化といった組織的な課題や、明確な目的・目標が定まっていないといった事業方針上の課題が、デジタル化への大きな障壁となっていると言えるのではないでしょうか。

デジタル化の課題をいかに乗り越えるか

図4はデジタル化に対する社内の意識とデジタル化において実施した業務プロセスの見直しの範囲別に、業績への影響を示したものです。これを見ると、デジタル化に取り組むことに対して積極的な文化が醸成されている企業は、業績にプラスの影響を及ぼした割合が高いことが分かります。また、業務プロセスの見直しを実施した企業においても同様の傾向が見られます。中小企業のデジタル化推進に向けては、デジタル化に積極的に取り組む組織文化の醸成や業務プロセスの見直しなど、企業自身の組織改革が必要と言えます。

図5はデジタル化に向けた経営者の関与度や事業方針の有無と労働生産性との関係です。これを見ると、経営者が積極的に関与している企業や事業方針の中にデジタル化の目標が含まれている企業の平均値が高い傾向にあることが分かります。デジタル化に向けた組織改革には、経営者自身が積極的に関与することや、企業全体のデジタル化に向けた方針を示すことで、より大きなデジタル化による成果を生み出すことが示唆されます。

地域のデジタル化推進に取り組むITベンダー

自社のデジタル化の取組を加速させる中で、社外のITベンダーの活用、支援機関の連携・協業も重要となります。ハードとソフト両方を開発・提案可能な(株)東北システムズ・サポート(宮城県)は、東北地域における事業拡大と地元企業への最新の情報通信技術の発信を目指し、2015年にRFID(非接触ICタグ)関連の自社製品などを展示する体験型ラボを盛岡市に開設。顧客が抱えるデジタル化の潜在的な課題に対して迅速な提案を行えるようになり、ミスマッチの防止や営業活動の効率化につながっています。顧客側も実際に製品に触れることで、同社の提案に対する知識を深めることができるようになりました。同社の取組は地域の中小企業にも評判を呼び、従来接点が無かった地域の医療施設などの新規案件受託にも奏功した他、現在はラボを活用したオンラインセミナーやリモートセールスという顧客との接点を深める場にもなっています。

ITツールの活用はあくまで経営課題解決の手段の一つです。他方で、我が国全体のデジタル化の取組が加速する中で、従来の業務スタイルや事業モデルから脱却し、自社に適したデジタル化を模索していくことは企業経営に欠かせません。デジタル化に向けた自社の取組を検討する上で本稿が参考となれば幸いです。

 

※図表の出典はすべて2021年版中小企業白書
資料:(株)野村総合研究所「中小企業のデジタル化に関する調査」、経済産業省「企業活動基本調査」再編加工

 

中小企業庁 事業環境部調査室 調査係長
鈴木崚
(2020年4月より当社から出向中)

機関誌そだとう208号記事から転載

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