投資先受賞企業レポート

専門家との共同研究で、“国内初”が可能に……
超・技術革新により日本を守る

株式会社プロテックエンジニアリング

 

日本は国土の7割近くが山岳地帯であり、多くの国民が中山間地域で生活している。近年、気候変動による豪雨や台風などの激甚化で、土砂崩れや落石、土石流が多発し、被害発生のリスクが高まってきた。

 

野村利充社長
1956年生まれ。日本大学を卒業後、道路防災工事の専門企業に
就職し、独立して1998年にプロテックエンジニアリングを創業。
好きな言葉は「大志を抱いて挑戦しよう」。趣味は35歳から
続けるトライアスロンで、練習を重ねて厳しいレースを完走する
ことで大きな達成感が得られるという。2020年、日刊工業新聞社
「優秀経営者顕彰 産学官イノベーション創出賞」受賞。

株式会社プロテックエンジニアリング
主な事業内容:
落石・土砂崩れ・雪崩などの災害対策用新工法の開発・設計・施工・資材販売
本社所在地:
新潟県北蒲原郡
創業:
1998年
従業員数:
115名

研究機関・行政と協力し、常に改善をかさねる

新潟県聖籠(せいろう)町に本社を置くプロテックエンジニアリングは、こうした斜面災害から人命や生活を守る防災ソリューションを提供する専門企業の草分けである。落石、雪崩、崩壊土砂などを防止する独自の防護壁や防護柵を開発・施工し、政府(国土交通省)や地方自治体から高い評価を受けている。

人命がかかっているので、万が一の製品不良も許されない。商品化に当たっては、徹底した実験を行うとともに、理論的・技術的に精度を上げるため、複数の大学や研究機関との共同開発を実施。製品を現場に設置した後も、政府や各自治体と協力して改良を行い、さらに安全性を高めている。まさに、同社が今回受賞した優秀経営者顕彰「産学官イノベーション創出賞」のテーマである「産学官」連携・協力によって、日本を災害から守っているといえよう。

同社を創業した野村利充社長(64歳)は、こう語る。
「中山間地域の集落や交通網などを守ることが、この国をつくることだと思っています。その技術を少しでも革新することが、当社の使命です」
従来の防護壁や防護柵は、コンクリートや鉄鋼を使った大がかりな土木工事が中心だった。もちろん、そうした工程を要する場所もあるだろうが、費用と時間がかかると同時に、自然の景観を壊す懸念もある。
これに対して、同社の製品は斜面災害の実態に合致したソリューションや工法の開発により、効率よくその衝撃を吸収して被害を食い止める。設置期間やコストも格段に抑え、特殊な構造や壁面の緑化によって、景観を守ることも可能だ。

落石対策製品「ジオロックウォール」は、
現場の土を擁壁に利用することで、
低コストと景観調和を実現(栃木県日光市)。

例えば、1998年、同社が創業時に開発した落石対策の「ジオロックウォール」。同社の評価を決定づけたこの製品が生まれるまでは、やはりコンクリート製の擁壁が一般的だった。これに対して、ジオロックウォールは、現場にある土を使って擁壁化するという、国内初の独創的なアイデアを採用したのである。
高強度で高伸度の袋材に土を詰め、それらを積み上げて特殊な繊維材で保護・補強し、土の擁壁を築いていく。コンクリート擁壁に比べて効率よく衝撃を吸収し、5500キロジュール(10トントラックが時速約120キロで壁に衝突したときの力に相当)の落石エネルギーに対応できる。
「現地の土を使うため費用も安く、短工期の上、植生により壁面を緑化できるので、景観に調和します」

ジオロックウォールは、旧日本道路公団の大阪技術事務所とともに、2000年から2年間にわたる共同実験を行い、衝撃吸収性能を証明した。一方、コンクリート擁壁では、それまで民間企業による実証実験が過去に行われたことはなく、同社は安全性能を明確に裏付けた防護壁を、国内で初めて開発したことになる。
現在までに全国で660カ所の採用実績があり、新潟県知事表彰の技術賞も16年に受賞している。

 

安全性能が裏付く新工法でソリューションの常識覆す

続けて開発した「三角フェンス」は雪崩予防と落石防護の両方に活用できる画期的な製品で、正三角形と逆三角形のワイヤーネットを交互に設置し、アンカーで斜面に固定する。従来の雪崩予防柵では設置しにくい軟弱地盤や狭い斜面にも適応でき、5メートルまでの積雪と、500キロジュールの落石でも耐えられる。
設置の際、山を大きく掘削する必要がないため、木の伐採を最小限に抑えることが可能で、ネット構造なので透過性に優れていて、周囲の景観に溶け込みやすい。

同じく雪崩・落石対策では、3メートルの積雪と50キロジュールの落石に耐える「ARCフェンスSタイプ」もロングラン製品となっている。
さらに、崩壊土砂対策では「スロープガードフェンスタイプLE」が主力だ。狭い場所でも柔軟に施工できる鉛直式防護柵で、ワイヤーネットを支柱で支える工法により、土砂衝撃力のほか、300キロジュールの落石にも耐えられる。
スロープガードフェンスは、民家裏に迫ったような斜面でも施工可能で、工期も1~2カ月と短期間だ。
現在までに全国で400カ所の採用実績があり、20年には新潟県知事表彰の技術賞を受賞している。
同社製品の多くが国土交通省の新技術情報提供システム(NETIS)に登録され、政府が新工法として推奨している。

このように、同社では多くの製品バリエーションを用意しており、累計で2800カ所の施工実績を持つ。主要製品は前述の三角フェンス、ARCフェンス、ジオロックウォール、スロープガードフェンスの4アイテムで、売上の7割以上を占めている。
13年に政府が国土強靱化基本法を策定して以来、防災や減災に積極的な財政出動がされるようになり、自治体から同社への引き合いが増えてきた。18年には「国土強靱化アクションプラン」が施行、さらに21年度からは「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」が動き出すので、同社のソリューションに対する需要は高まりそうだ。

 

(左)道路沿いに設置された雪崩・落石対策用製品「三角フェンス」(新潟県十日町)。周りの景観に溶け込んでいる。
(中央)狭い場所への施工も可能にした崩壊土砂対策用製品「スロープガードフェンス」(北海道支笏湖)。
(右)近年、ニーズが急増している小規模渓流向け土石流・流木対策製品「アーバンガ ード」(栃木県日光市)。

外部視点を導入し、解析と実証の確実性向上

実験場で、落石対策用製品のロングセラー
「ARCフェンス」に石を模した重りを落とす様子。

野村社長は自社の強みについて、製品のラインアップが広いことと、自社で企画開発から製造、施工まで一貫して提供でき、実験施設も自前で保有していることを挙げる。
「3カ所の実験場では、15メートルの斜面や高さ30メートルの岩盤など、自然を利用した種々の実験が可能です。多くの競合は、ここまでの設備を自社保有していません。さらに、21年11月からは業界最大級の落石フェンス実験場を稼働させます」
この最新実験場では、実物のフェンスを設置し、落石に見立てた重りを落とすことで、さまざまなパターンの実験を行うことができる。

「落石対策のマニュアルともいえる『落石対策便覧』(日本道路協会)には、防護フェンスの細かい性能基準が規定されていますが、例えば、フェンスの中央部以外に落ちた場合のことまでは書かれていません。われわれは、いろいろなケースを想定した検証をしたいと考えています。もちろん自然の出来事は想定できませんが、どんな落石にも耐える構造物を、よりスピーディーに開発するためにも、実験場は重要なのです」

 

重りの自由落下実験。自前の実験場で実証テストを
行えることが、スピーディな製品開発に欠かせない。

実験や技術開発に当たっては、どのようなテストを行うかという設計力が問われる。同じ崖崩れ、土砂崩れでも、水分量や粘性などは、さまざまだからだ。そのため、同社では創業当初から大学や研究機関との共同研究を続けてきた。新実験場では金沢大学の桝谷浩教授に協力を依頼、実験のモデル化を進める。
製品開発でも専門家との共同研究や専門家による監修実績は多く、ジオロックウォールは岐阜大学工学部、雪崩対策では国立防災科学技術研究所・雪氷防災研究センターや新潟大学理学部、落石や崩壊土砂対策では前述の金沢大学と提携している。

研究者と共同研究する理由について、野村社長はこう語る。
「われわれ民間企業だけで実証しても、確実性を保証できません。外部の専門家によるチェックや視点を導入して、修正していくことが大切です。特に土木構造物では構造解析が重要で、コンピュータシミュレーションによる動的解析について、指導してもらっています。まず、解析し、次に実証して精度を上げていかなくては、安全性を担保できません」
研究者にとっても、実験場を利用したり、同社の技術者たちと共同で論文を発表できるメリットがある。加えて、研究室の若手研究者育成にも役立っているわけだ。

斜面災害防止技術を日本から世界へ

野村社長は大学卒業後、道路防護構造物をつくるメーカーに勤めていたが、「コンクリート擁壁より、もっといい工法があるはずだ」という思いが高まり、退職すると、まずはビジネスを学ぶため、1997年8月にアメリカへ留学。そこで、コロラド州交通局の落石対策担当者と知り合った。その担当者に、土の擁壁で落石対策を実施している現場へ案内してもらったことで、新たな工法のヒントを得たという。
98年4月に帰国すると、旧知の間柄だった金沢大学の吉田博名誉教授を訪ねる。吉田教授は落石研究の大家で、土木学会評議委員や建設省(当時)の雪崩防止施設検討委員会委員長などを歴任していた。

こうして吉田氏と、建設資材メーカーの前田工繊とも提携し、補強土擁壁の開発を始めた。同年、野村社長はたった1人で現在の会社を設立。吉田氏などからも出資を得て、試行錯誤の末、ジオロックウォールが完成する。だが、新しい防護壁に対して自治体などは及び腰で、野村社長は実証実験の結果を携えて行政担当者や建設コンサルタントなどを回り、説明を繰り返す。翌99年、ようやく北海道開発局から初受注を得る。

 

2021年11月から稼働予定の新実験場
(イメージ画像)。下は本社社屋。

事業が軌道に乗り始めたのは2004年ごろからだ。創業以来、製造を他社に委託するファブレスだったが07年、現住所に本社と工場を設立してからは、順調に業容が拡大した。
野村社長には「日本生まれの災害対策技術を海外にも紹介したい」という思いが強く、12年に韓国へ事務所を設立、13年には国際協力機構(JICA)の委託事業によって、トルコに雪崩対策として「ARCフェンスSタイプ」を設置した。

その後、トルコ政府に災害対策の必要性を訴求しようとするも、テロやクーデター未遂事件などが起きて政情が不安定になり、いったん撤退する。19年には、ブータンでも落石対策用の防護ネットを施工したが、コロナ禍で中断を余儀なくされた。
アメリカやカナダへも進出する希望はあるが、安全基準の違いと、競合との関係から、当面はODA関連事業に絞る予定だ。

20年には新製品としてスロープガードフェンスを応用した「アーバンガード」を開発。これは小規模渓流向けの土石流・流木対策用ワイヤーロープネットだ。支柱は高強度で靱性に優れ、土石流が起きても繰り返し利用できる。
近来、小規模渓流でも突然の豪雨により危険な土石流が発生しやすくなり、アーバンガードへの反響は大きい。このため、1カ月程度の短期間で施工できるように、規格品を工場で備蓄している。

野村社長は同社の将来像について、「災害対策分野で日本一、そして世界一のメーカーになりたい」という。「防災には、絶え間ない改良と進化が必要です。そのために、三角フェンスなどでは融雪後の点検を自主的に行っています。行政もそれを理解して通行止めに協力してくれたり、追加コストの負担にも応じてくれることもあります。この仕事はまさに産学官の協力なくして、持続できないものなのです」
災害から人命を守ろうとする人々の矜恃がここにある。

 

東京中小企業投資育成へのメッセージ

資本政策のアドバイスなど、投資育成には支援してもらっています。いまは管理職を養成するセミナーを活用させてもらい、年間4~5人の社員を送り込んでいます。職位の上がった社員には必ず受講させており、社外の人たちとの交流による刺激を受けて、社会人力を磨いてほしいと願っています。中小企業には社員育成の仕組みがなく、セミナーの機会を提供してもらって感謝しています。

投資育成担当者が紹介! この会社の魅力

業務第五部 上席部長代理
丹羽祐介

実績が重視される土木業界においては、後発メーカーであるプロテックエンジニアリング様。同社が発注者から信頼を獲得するのは、容易なことではありませんでした。この課題を克服するため、産学官連携による共同実験などを精力的に実施。実験データの客観性や透明性を高めることで、自社製品の信頼性向上を図り、シェア獲得に成功されました。

機関誌そだとう208号記事から転載

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