経営トップセミナー 開催報告

どんな時代もサバイバルする会社の“社長力”とは

株式会社小宮コンサルタンツ・小宮一慶さん

本日は「今こそ経営の基本を徹底せよ!」をテーマにお話をします。私は、経営者の役割は①方向付け、②資源の最適配分、③人を動かす、の三つであると定義しています(図表1)。中でも重要なのは①で、経営の8割は方向付けで決まります。

これはコロナ禍であっても変わりません。方向付けとは何でしょうか。それは「何をするか」、「何をやめるか」を決めることです。

こみや かずよし
1957年大阪府堺市生まれ。京都大学法学部卒業後、東京銀行入行。
米国ダートマス大学タック経営大学院留学、MBA取得。
その後、岡本アソシェイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。
その間、カンボジアPKOに国際選挙監視員として参加。
後に、日本福祉サービス(現セントケア)を経て、96年、独立し、現在に至る。
「経営の原理原則」をもとに、幅広く経営コンサルティング活動を行うー方、年100回以上講演を行う。
『ビジネスマンのための「発見力」養成講座』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書は140冊を超える。

すべてやる、最善を尽くす

これを実践する上でケンタッキー・フライド・チキンの創業者であるカーネル・サンダース氏の言葉が参考になります。それは「できることはすべてやれ。やるなら最善を尽くせ」です。この言葉を改めて意識して、危機を変革のチャンスにしなければなりません。

彼がフライドチキンの事業を始めたのは65歳になってから。それまで、さまざまな事業に挑戦して失敗しましたが、あきらめず、最終的に世界的な大フランチャイズチェーンをつくり上げました。

私どもの顧問先にはコロナ禍でも最善を尽くしている企業が少なくありません。たとえば、宮崎に本社を置く企業は、イベント会場などに設置する、空気で膨らませる遊具を貸し出しています。みなさんも滑り台やドームなどを見たことがあるのではないでしょうか。正社員は25人ほどで30人程度のパート社員がいます。この企業は、コロナ禍で売上がほぼゼロまで落ち込んでしまいました。社長はまだ40代ですが、何をしたか。遊具は中国から輸入していましたので、そのコネクションを利用してマスクを輸入しました。そして利益をほとんど乗せずに販売したのです。日ごろ、イベントでお世話になっているお客さまなどを中心に感謝の気持ちを込めて、原価に近い価格で販売しました。

それだけではありません。空気で膨らませる遊具を活用してPCR検査場(エアー式簡易陰圧室)をつくったのです。すばらしいですね。どんなときにも、できることは必ずあるはずです。そのときに大事なのは、「できない」とは絶対に思わないことです。自分たちの強みを生かしてお客さまに何ができるかを考える。従業員の知恵も借りるのです。

危機は人材採用のチャンス

また、資金に余裕のある企業では、現在のような危機的な経済環境においては、人を採用するチャンスです。1年ほど前は、なかなか採用ができない状況だったと思います。当時の有効求人倍率は1.63倍でした。それがいまは、1.11倍になっています。これは全体の数字ですが、日銀短観(6月調査)で業種ごとに見ると、製造業では大企業も中堅・中小企業も人が余っている。ですから、いい人材を採用するチャンスなのです。

環境が変化したら、あわせて企業も変わらなければなりません。1年前に採用が難しかったので、いまだその感覚を持っている経営者が少なくありません。しかし、状況は変わりました。資金に余裕がある企業は、いい人材を選ぶチャンスです。

一生のお客さまをつくる

そして、危機のときには昔からのお得意さまが大事です。「一回のお客さま」をいかに「一生のお客さま」にするか。そのためには、リレーションシップマーケティングが重要になります。リレーションシップマーケティングでは、お客さまを6段階に分けています。

最初は、商品やサービスに興味を持っているけれど、まだ購入したことがない「潜在客」。次に、商品やサービスを購入した「顧客」。さらには、継続して商品やサービスを購入してくれる「得意客」。そして、特定の商品を、特定の企業からのみ購入する「支持者」です。たとえば、百貨店に行くなら「●●百貨店にしか行かない」という、浮気しないお客さまです。さらに商品やサービスを気に入ると、他の人に商品を勧めてくれる「代弁者」になります。口コミで良い評判を広げてくれます。ネットの時代にはSNSなどでの口コミがとても重要です。そして最上位は「パートナー」。他のお客さまを紹介してくださる、わざわざ店まで連れてきてくださる、あるいは、イベントがあれば手弁当で協力してくださるお客さまです。

一生のお客さまになっていただくには、潜在客→顧客→得意客……と関係を深めていかねばなりません。とくに「支持者」から「代弁者」になってもらうには、大きなハードルを越える必要があります。では、どうしたら代弁者になってもらえるのか。それは、お客さまが感動したときです。お客さまが商品の購入判断をするときはQ(Quality=品質)、P(Price=価格)、S(Service=サービス)に着目しますが、一つの基準で判断する人はほとんどいません。三つの基準を考慮して相対的によいものを選びます。この三つをどう組み合わせるかが重要になりますが、企業によって、どれを強みにするかは変わります。

差別化の原点はQ、P、Sであることを理解するとともにいかにお客さまに感動してもらえるかを考えていく必要があります。

コンビニ式の差別化戦略

この話をすると、「うちはクオリティーやプライスで差別化できないんです」という経営者がいます。その場合は、サービスで差別化すればいいのです。たとえば、コンビニエンスストアは、品質も価格も大きく変わりません。もともとサービスで差別化するしかないのです。ところが1店舗1日当たりの売上はセブン-イレブンが平均65万円程度であるのに対し、ローソンやファミリーマートは55万円程度です。これは20年間ほど変わっていません。その差は、徹底の度合いです。

コンビニエンスストアのサービスのポイントには、品揃え、鮮度、クリーンリネス(美しさ)、フレンドリーサービスの四つがあります。これらを徹底しているのがセブン-イレブンです。お客さまは敏感ですから、僅かな違いにも気が付きます。それが2割の売上の差になって表れるのです。これはコンビニ業界で周知の事実です。それでも変えられない。徹底するのはそれだけ難しいということですが、実現できれば大きな強みになるのです。

危機のときこそ、「できることはすべてやれ。やるなら最善を尽くせ」をぜひ、実践してください。

機関誌そだとう205号記事から転載

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