日本を支える中小企業のDNAを引き継ぐ事業承継

東京中小企業投資育成(株)代表取締役社長
元経済産業事務次官 望月晴文

コロナ禍が顕在化してから1年半が過ぎました。各企業もリモートや非接触を前提に、働き方の根本に変化を強いられています。おそらくこの変化はコロナ禍が過ぎた後にも、もう完全には元には戻らないものだと思われます。くわえて米中の覇権主義は国際政治経済の分断と対立を引き起こしています。さらには世界中がカーボンニュートラルという目標を競い合い始めました。様々な局面で世界は激動し始めています。

激動する経済社会の中で、業種業態を問わず中小企業はいま多様な困難と格闘しています。企業にとって最も大切なことは持続可能性ですが、この観点からみても非上場の中小企業にとっては上場企業と全く別の固有の課題がいくつもあります。その最たるものが、日本社会全体が少子化している中での企業の後継者不在です。これはもうごくごく日常の問題になっています。若者の価値観が多様化していく中で、かつてのように家業を継ぐということが歴史のあるファミリー企業であっても当然のことではなくなってきました。ましてや単に親がやっていたからといって、仮に事業が順調に進んでいたとしても、後継者にはそれなりの人生における覚悟が必要となります。

身内の後継者不在の場合、考えられるのがM&Aで別の会社に身売りをするか、社内の幹部から後継者を探すことになります。私はきちんと自立して経営してきた会社がM&Aで他社の傘下に入るのは、最後の手段だと思います。良い会社であればあるほど、中小企業は生き残るために自分の強みを理解しつつ、常に環境の変化の中でリスクを予測し対応するDNAを持っています。M&Aで他の企業の傘下に入ってこのDNAを失ってしまうことが多いのです。

したがって、会社のことを最もよく知っている幹部が後継者として経営を請け負うことが、会社全体にとって成功の鍵になることが多いといえます。ただその際の課題は、会社の所有の問題になります。将来、旧経営者の一族に後継者が現れる可能性があれば、株の移動は必要ありませんが、そうでなければ、何らかの形で株を受け継ぐ、具体的には新しい経営陣がMBOする必要があります。とは言っても、経営がうまくいっている会社ほど、株価が高くMBOの際に大きな負担になります。こんな場合に役員持株会や従業員持株会制度を上手に活用して対応することができます。私共では政府の中小企業政策の一翼を担う投資会社として、この一部を負担して支援することができます。実際、昨今の経営環境の下でこういったケースが大変増えてきています。

幸いにして後継者がいる場合であっても、親が作り上げた会社を引き継ぐことは事業を取り巻く環境が急激にグローバル化した今日、場合によっては創業に近い様々なリスクが待ち受けています。

こんな時にこそ、日本の中小企業はその特有の柔軟な適応力を発揮しリスクを乗り越えてほしいと思います。私共はそういったDNAを持った中小企業を支援したい。叶うことならば、全国の中小企業の方々に信頼されているTKC会員の皆様にお導きいただき、ともに日本経済の基盤を支えている中小企業を支援する活動をしていきたいと念願しております。

                                                             TKC会報2021年6月号記事から転載

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