研究開発者賞受賞

当社投資先の受賞企業を紹介
~インターチップ株式会社~

IoT時代に不可欠な水晶発振器用ICを開発

世界シェア8割! 水晶発振器用ICで 時代を拓く

あらゆる電子機器の心臓部ともいえる水晶発振器用ICにおいて、最先端のチップを開発設計している インターチップは、低消費電力、低ノイズなど業界随一の高機能を誇り、世界中の水晶発振器メーカーに納めている。 特に周波数を調整できる携帯電話の基地局用では世界シェア8割を占め、今後のIoT時代に向けて期待される。

現代社会を支える わずか0・7ミリ角の アナログ回路

オフィスには実験室が1つだけ。神谷社長の
方針で、極力社員を増やさず、少数精鋭で開発・
設計に特化したファブレス企業として経営している。
主力製品の水晶発振器は、0.7ミリ角の極小の
電子回路(左下写真、提供:インターチップ)。
スマートフォンや電気自動車など、
現代の生活を支える多くの製品に使われている。

水晶ほど現代社会を支えている物質はない。あらゆる電子機器には水晶の特性を利用した振動子が使われている。水晶は電圧を加えると一定の振動を正確に繰り返すので、その周波数を基準として電子回路やデータの転送に利用している。

例えば携帯電話も周波数を細かく分割して基地局と通信しており、正確にその周波数を維持できるのも水晶振動子があるからだ。情報という血液を送り出す、いわば電子機器の心臓部である。この水晶振動子を制御する発振回路を組み込んだチップが、水晶発振器用ICである。このICで世界最先端の技術を持つ会社がインターチップだ。同社の神谷昌明社長(70歳)はこう語る。
「競合の中でも消費電力やノイズが少ないなど、スペックでは当社の製品が一番すぐれているでしょう。そうでないと、こんな小さな企業は生き残れませんよ(笑)」

同社の主力製品は、最もシンプルな水晶発振器であるSPXO(パッケージ水晶発振器)と、電圧によって出力周波数を調整できるVCXO(電圧制御水晶発振器)である。

SPXOの世界シェアは2割程度だが、携帯電話の基地局などに使われているVCXOは約8割を占めると推測される。競合は日本では3社、世界中でも7社で、世界に40社ある水晶発振器メーカーのうち、ベスト5を含む20社がメインの取引先となっている。

かつては売上比率で国内が8割に達していたが、10年程前から海外からの注文増加に伴って、現在では国内と海外で半々の割合となり、海外は台湾、中国が大半を占めている。

シャープペンシルの芯との比較

データセンターのように高速で大量の情報を処理する場合、極力電力を消費せず、ノイズの少ない高品質の信号が求められる。インターチップはデータセンター用の水晶発振器用ICも手がけており、現在、好調に売れているという。
「電子機器では『システムが動かなくなっても水晶発振器だけは最後まで動いていてほしい』といわれるほどなので、何か問題が生じたときにはすぐに対応しなければなりません。当社はクレームやトラブルにはスピーディーかつ丁寧に対応することをモットーとしており、そのため他社のICのトラブルについても相談されるほど取引先の信頼を得ています」と、神谷社長は自信を持って語る。

水晶発振器はわずか0・7ミリ角程度の微小な部品であり、その回路はアナログだ。アナログであるために回路設計の技術によって性能は大きく変わる。インターチップはこの回路設計に強みを持っている。そもそも社名の由来もアナログとデジタルの世界を結ぶチップを作るという意味を込めて「インターチップ」と名付けた。

製造・経理・人事は 外部にアウトソーシング。 開発と設計に特化

極小の水晶発振器を扱う同社にとって、
チリやホコリは大敵。実験室の一角には、
製品テストなどを行うための
クリーンルームを設けている。

同社は水晶発振器回路の開発設計のみを行い、IC全体のレイアウト設計やシリコンウエハの製造、チップ加工、検査などの工程を、すべて国内外のメーカーに外部委託している。インターチップでもウエハの検査や完成品の最終検査を行って、出荷している。
工場を持たないファブレス経営どころか、経理や人事も会計事務所等にアウトソーシングしている。回路の開発・設計・検査に特化しているため従業員が20名ほどの規模ながら継続的な新製品の開発を可能にしている。研究開発費も、人件費を含めて1億円ほど投資している。

製造工程は外部に委託するため標準プロセスにならざるを得ず、回路設計の工夫によって商品の差別化を行い、結果として技術力が蓄積された。 「お客様が求めるスペックを満たす回路をどう設計するかが肝心です。設計と評価は私を含めて6人でやっています」と神谷社長。

検査機器は本社に完備しており、マイナス40度からプラス150度まで温度を変えながら検査したり、125度の高温槽に3カ月さらしてICの耐久性を確認したりする検査もある。中には過酷な環境で使われるICもあるので、こうした負荷テストは欠かせない

また、小型のクリーンルームもあり、ウエハの抜き取り検査を行う。顧客からクレームがあったときは電子顕微鏡によって異物などを原子レベルまで確認し、それが有機物か無機物のゴミか分析するという。

こうした姿勢が、取引先の高い評価を得ている理由だ。

一方ファブレスであるため、委託先を巡るトラブルを避けることはできなかった。

半導体開発部長に 昇進するも管理が嫌いで独立

同社の水晶発振器のラインアップ。
VCXO(電圧制御水晶発振器)は携帯電話の基地局では
不可欠な存在で、世界シェアは約8割。
世界40社の水晶発振器メーカーの約半数と取引がある。

神谷社長は1947年生まれだ。72年に第二精工舎(現セイコーインスツル)に入社し、時計用の水晶発振器用IC回路などに携わった後、不揮発性メモリーの開発を担当。その後はデバイス開発に従事した。水晶発振器よりデバイス開発の方が遥かに経験が長い。  入社2年後、27歳の時にコンピュータサイエンスで有名なカーネギー・メロン大学に留学し、工学部博士号を取得した。帰国時に指導教官がゼロックスのパロアルト研究所に移籍していたことから、神谷社長も3カ月ほど滞在し、シリコンバレーの空気を吸った。そのことも後にインターチップを設立する遠因になったのかもしれない。

帰国後は職場に復帰し、アメリカのベンチャー企業が設計したICの受託生産などを担当したが、「スーパーマンでなくともちょっとしたアイデアや差別化ができれば良いのなら、自分でも起業できる」と、密かに思っていたという。
「根っから技術者なので、管理業務が性に合わなかったんです。もう一度技術屋に戻りたいという気持ちが年々強くなりました。それに、IC開発で問題が起きると、回路設計屋はすぐにデバイスの変更で解決を図ろうとするのです。デバイス屋からすれば、標準デバイスを使って回路設計の工夫で解決しろと。それなら、いっそのこと自分で回路設計をやってみようと思ったわけです」
と語る神谷社長はいたって温厚そうに見えるが、内部には反骨と闘争心がきっとあるのだろう。

とある管理手法に沿って仕事をしていれば会社の業績は独りでに良くなるといった当時の経営の考えと合わなかったこともあって、1998年に独立、仲間3人と千葉県松戸市でインターチップを設立した。設立日と神谷社長の誕生日は同じで、ちょうど51歳だった。起業家のデビューとしては遅い方だったが、神谷社長は自分の技術力に対する多少の自負と50まで真面目に会社勤めをしてきたのでこれからは好きなことをやって人生を送りたいという軽い気持ちでスタートした。

創業メンバーは全員同じ会社のOB。残念ながらこのうち2人とはすぐに袂を分かったが、以来、良い社員に恵まれたこともあり、定年退職した1人以外はインターチップを辞めた社員はいないという。

当初は、アナログ半導体メーカーとして有名なアメリカのバー・ブラウン社(2000年にテキサス・インスツルメンツが買収)からVCXOの設計を委託されるという幸運のもと、スタートすることができた。
「契約を交わすとき、開発したVCXOを当社でも販売できる内容にしました。これによって開発費をもらいながら製品を作れることになったのです。ついていましたね。しかし、第二精工舎入社時にやった時計用の水晶発振器回路の設計知識しかなかったのに、請け負ったのだから恐いもの知らずでした。3~4カ月ぐらいで開発には成功しましたね」

5GとIoT時代に 向けて高性能のICを開発中

水晶発振器の構造を解説する神谷社長。
70歳の今でも、ほぼ毎日設計に取り組んでいる。
「企業に長年いると、管理業務をやらされる。
それが性に合わなくて」と、独立した
経緯を話してくれた。

だが、その後も順風満帆とはいかなかった。自社で売り出したVCXOが少ししか売れなかったのだ。知名度も信用もまったくないのだから仕方がないが、初年度は2万~3万個どまり。1000万円を超える赤字となった。
しかし、その程度で済んだのは当時、単価が40円と高かったからだ。その後は価格の低下と戦うことになる。
「運転資金を借りにいっても、銀行は上から目線でね、貸してはくれましたが威張っていましたよ。営業で製品説明に行っても信用がないため、情けない思いもしました。それでも中には信用して発注してくれるお客様もおり、4年も経つと、実績を認めてもらえるようになりました」と神谷社長は苦笑いする。

売上げはほぼ右肩上がりで増え続け、3年目には単年度黒字に転換、5年目には累積損失を一掃、売上高経常利益率が最盛期には20%を超えた。現在、売上げは7億円超(2017年度)と過去最高で、出荷個数は1億7000万個を見込むが、平均単価は5円と大きく下がり、付加価値の高い製品の販売比率を上げることが同社の課題となっている。

今後、期待されるのが、移動体通信システムの第5世代、いわゆる4Gから5Gという次世代への移行だ。5Gの実現によって超高速通信が可能となり、IoTが加速される。

IoT時代にはスマートウォッチやスマートグラスなど、エッジデバイスと呼ばれるネットワーク機器類が多数出現し、高性能の水晶発振器用ICが必要となる。現在、インターチップでは5G対応のICを開発中だ。 「5Gとなると、大量のビッグデータを転送することになり、データセンターの処理量もさらに増えるので、それに対応するICも開発中です」と神谷社長。

こうした点を評価されて優秀経営者顕彰の研究開発者賞を受賞したわけだが、「外部の評価を気にしたことはなかったが、評価されたことはうれしいですね。以前、東京都の表彰を受けたことがありますが、それ以来なので、元気が出ます。もう少し頑張らないと」と語る。

これまでなるべく社員を増やさずに少数精鋭の「15人ラグビーチーム方式」で進めてきたが、最近、若いエンジニアを採用し、正社員が16人になった。IoT時代に向けて、神谷社長がアクセルを踏むタイミングがやって来た。

機関誌そだとう196号から転載

Profile

神谷昌明社長
1947年生まれ。カーネギー・メロン大学工学部博士課程修了。
1972年、第二精工舎(現セイコーインスツル)入社。
1989年には半導体開発部長に就任。
1998年、51歳の時にインターチップを設立、
代表取締役に就任。

主な事業内容:半導体集積回路の開発設計・製造販売
所在地   :千葉県白井市
資本金   :8250万円
創 立   :1998年
従業員数  :21名(うち正社員16名)
会社HP  :http://www.interchip.co.jp/

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