投資先企業レポート

“安全”への徹底が進化の基本

株式会社ボルテックスセイグン

“輸送のプロ”として業界に先駆けサービス向上へ取り組み、社員の安全対策は国や法律さえも飛び越えている……。そんな企業がある。大手化学メーカーや一般消費財メーカーを主な取引先に総合物流会社として成長してきたボルテックスセイグンだ。その経営成果を評価され、同社はグッドカンパニー大賞・優秀企業賞を受賞した。

「まさか、当社が受賞できるとは思いませんでした。ただ、我々にとっての商品はサービスであり、社員の能力がそれを担保しています。だから人を育て、安全に働ける“環境の整備”を徹底してきました。それが評価されたのなら、うれしい限りです」と、武井宏社長(74歳)は受賞を語る。

大賞50年の歴史上、運送事業者として3番目、関東地区ではなんと初の受賞となったが、全国に多くの運送事業者が存在する中で、何が評価の決め手となったのだろうか。

武井 宏社長

武井 宏社長
1946年生まれ。千葉工業大学卒業後、68年ボルテックスセイグンに入社。
88年に社長就任。2016年から群馬県トラック協会会長。趣味はゴルフ。

株式会社ボルテックスセイグン
主な事業内容:
運輸業、倉庫業、通関業、労働者派遣事業、業務請負業など
所在地:
群馬県安中市
創立:
1951年
従業員数:
860名(グループ連結)

通関業資格&ISO取得で人材育成と業務品質を向上

の健康状態や運行内容のチェック

(上)IT遠隔点呼システムを介し、営業所で本
社スタッフと運転前の血圧・アルコールなどの
健康状態や運行内容のチェックを受けるドライ
バー。
(下)対面でも同様の点呼を行っている。

受賞理由には、「化学品輸送のプロフェッショナルとして、人材育成と危険物物流インフラ整備により他社との差別化を図る」「安全第一主義の理念のもと、業界に先駆けて運転手健康管理システムを構築し、業界での普及活動にも尽力」が挙げられている。

実はこれらこそ、まさに同社が物流業界で確固たる地位を築いた最大の要因といえるのだ。

群馬県安中市に本社を構えるボルテックスセイグンは、武井社長の父・悌二氏が1951年に西群運送として創業。大手化学メーカーから依頼される化学品や高圧ガスなどの特殊輸送に強みを持ち、160人を超える危険物取扱資格者を社内に擁する。

荷造りや梱包も請け負い、一般倉庫はもとより、危険物、冷蔵・定温倉庫など約7万平米の保管能力を誇る。運送業界が低迷する中、現在7期連続の売上増という好調ぶりだ。だが、ここに至るまでには、武井社長が社内外で取り組んできたさまざまな“改革”への挑戦と闘いがあった。

その一つが、コーポレート・アイデンティティ(CI)の策定だ。68年に入社した武井社長は88年に現職となり、社内の組織改革に着手。3年後の91年に迎える創業40周年を見据え、自社の存在価値を棚卸す。

「先代から始まり、これまで何を大事にしてきたのか、なぜ事業を続けてこられたのか、と。その第1番目に挙がったのが“安全”です。父は社員を家族同然に大切にしてきました。運送業にとっては、社員そのものが品質といえます。だからこそ“安全第一主義”を基本理念にしたのです」

同時に、顧客・地域へのアンケートを実施すると、顧客から同社への要望として出たのが、国際物流を含めた総合物流への脱皮を図ることであった。当時、群馬県で通関業務を行う運送会社は大手のみ。輸出入貨物の業務を行うには保税蔵置場※1と通関業の許可、国家資格を持つ通関士が必要になるが、顧客の信頼に応えるべく、武井社長は迷わず動く。

「外部から通関士を2人招聘して当社の社員を教育してもらい、通関士を育てました。いまでは3人いますが、通関の仕事ができる環境が整うまで約10年かかりましたね」と武井社長はその苦労を語る。

95年に保税蔵置場、2000年には通関業の許可を取得。これにより、それまで横浜や川崎の保税倉庫で通関を行っていた顧客が地元の倉庫で作業できるようになり、工程が1週間から2日間に短縮された。

「お客様の輸出入拡大にも一役買ったのではないかと自負しています」

だが、武井社長はさらに挑む。輸送のプロとして国際貨物を扱う上で必要と判断したのが、ISO9001※2の取得だった。

「お客様からは、自社で必要な国際規格は持っているのでISOは要らないのでは、と言われたのですが、当社の人材育成とサービス品質向上の手段になるとして導入を決めました」

1999年にISOを取得。群馬では11番目、運輸業としては県内初であり、しかも範囲を貨物から倉庫・加工・輸送・通関まで幅広く適用した。「ここまで取得している運送事業者は少ない」、と武井社長。

※1 保税倉庫=関税徴収が一時留保された区画 ※2 品質マネジメントシステムの国際規格

リスクを徹底排除危険防止に先行投資

指差し呼称

日常に潜む危険を社内のグループごとに予想して指摘し合うKYT活動。
毎回、全員で「出発前に周囲の確認、ヨシ!」などの指差し呼称を行っている。

さらに同社の特徴的な取り組みが、基本理念である「安全第一主義」の徹底だ。まず95年、住友金属工業(現・日本製鉄)が事故を未然に防ぐために導入していた「危険予知(KY)活動」をモデルに、「危険予知トレーニング(KYT)活動」をスタート。社内を64チームに分け、月に1回のミニ防災訓練や、日常に潜む危険を話し合い、テーマを決めながら現場に生かす活動を通じて、毎年11月の発表会で成果を共有する。

2000年からは、業界に先駆けてトラック全車にデジタル・タコメーター(デジタコ)を装備、制限速度を設けた。ちなみに、政府が大型トラックにスピードリミッターを義務づけて速度抑制に乗り出したのはその3年後である。デジタコの運転記録で社内の月間安全運転ランキングを集計しているが、開始後からすべてのドライバーが90点以上のAランクとして認定。事故が減っただけではなく、トラックの燃費も向上した。

ドライバー安全運転研修

年間スケジュールに基づき開催するドライバー安全
運転研修では、全社一丸となって事故撲滅に取り
組む。ドライブレコーダーの映像によるKYTも実施。

05年には、危険走行などがあると専任の指導者がトラックに同乗する「安全運転技能同乗指導」を開始。同年に開発・導入した「IT遠隔点呼システム」は、カメラと各測定機器を使い、運転前にドライバーの血圧やアルコールをチェック、運行内容を確認しながら業務に支障がないか確認する。静脈認証により、万が一のなりすまし運転を防ぐことも可能だ。

当時、走行前の点呼は対面が一般的で、本社と各営業所を遠隔で結ぶシステムは画期的だった。高性能のアルコール検知器はメーカーの協力を得て独自に開発。このシステムにより点呼記録が一元的に集約・記録され、営業所の負担が減った。この点呼時のアルコール検知器使用が法定で義務づけられたのは11年のことであり、ここでもボルテックスセイグンは6年も先んじていたことになる。

自社敷地内の給油施設

BCP(事業継続計画)により非常用電源を備える自社
敷地内の給油施設。
大規模災害発生時には、市内の警察や市役所車両へ
の燃料供給も行う。

全車にドライブレコーダーを導入したのは08年。事故からドライバーを守るだけでなく、車内を撮影し、適切に運転できているかの確認材料としている。通年で行う「ドライバー安全運転研修」では、ドライブレコーダーの映像を用いたKYTも実施する。

また、ドライバーたちの平均年齢が高くなりつつあったことから、12年に「健康管理室」を設置。本社に常駐する保健師が定期健診結果をもとに健康指導を行うことにした。問題があると社長名で対面相談が要請され、再検率は100%が続いている。14年には、保健師が各営業所の社員をオンラインで指導する「遠隔健康指導システム」も始めている。

「健康管理室からメールがくると必ず相談にいかないといけない。いまではそれが当たり前になっています。保健師を常駐させてまで健康管理に取り組んでいる同業は見たことがありません」と武井社長は誇らしげだ。

業界・企業・法律を超えて安全確保と健康管理を普及

無人フォークリフト

自社開発した自動荷役システム。
トラックから倉庫の受け渡しエリアに降ろされた荷物を無人フォー
クリフトが自動化されたラックへ運び、指定位置に収納する

直近では群馬大学と共同で、ドライバー用の健康リストバンド開発に取り組む。運転時に血圧や脈拍などを検知しながら、突発的なドライバーの身体変化をとらえて、アラームを発する研究が進行中だ。

一方、20年1月には倉庫内の業務を省人化して生産性を上げる自動荷役システムを開発、市販も始めている。このシステムは無人フォークリフトと自動化された移動式のラック(棚板)を組み合わせ、トラックから降ろした積み荷を受け渡しエリアに置くと、フォークリフトがラックへ運び、指定位置に荷物が収納される。

これまでは人手に頼っていたため、入庫・出庫待ちのトラックが倉庫周辺に並んだり、人が少ない深夜などは作業者の負担も大きかったが、自動荷役システムによって最少の人員で倉庫の24時間稼働も可能となる。

「生産性向上もありますが、もともとの発想はやはり“安全確保”です。フォークリフトの積み降ろしではどうしても荷物の落下事故があります。人と機械のある場所を分けてしまえば、事故は基本的には起きません」

事故からいかに社員を守るか──。ボルテックスセイグンでは、トラックのボディにステップや手すりを自主的に取り付けている。なぜならば、同社は70歳を超えるドライバーであっても本人の能力が許す限り雇用を維持しているが、特に高齢者や女性ドライバーには、トラックの運転席や荷台からの乗降が大きな負担になっているからだ。武井社長が会長を務める群馬県トラック協会の調査では、陸上貨物運送事業における転落・墜落事故のうち、運転席・荷台昇降時の転落は実に約4割も占めているという。

武井社長は安全確保や健康管理について、トラック協会を通じ、政府や業界に注意喚起し、課題解決を促している。トラックのステップ改良などは、国交省やメーカーへ訴求した結果、現在ではそれが標準装備という認識が広がりつつある。

考え方と姿勢の源泉は宅急便の生みの親

こうした武井社長の考え方や姿勢の源は、実は宅急便の生みの親であるヤマト運輸2代目社長の故・小倉昌男氏との出会いにある。小倉氏が業界の常識を打ち破り、立ちはだかる官僚や法律と闘ったことは有名だ。

武井社長は小倉氏が1972年に設立した全国運輸事業研究協議会(全運研)に参加し、小倉氏と出会う。

「かつて駅でスキー板を担いで電車に乗り込むスキーヤーたちを見て、まとめてゲレンデまで板を運ぶビジネスができないかと考えたことがあります。結局、私はできず、小倉さんはビジネス化した。その後、一緒に飲んだとき、その話をして称賛すると、小倉さんは『武井さんはやらなかっただけ、私はやっただけ』とおっしゃってね。その言葉が頭に残りました。以来、当社には小倉さんのDNAが流れているのです」

業界や国、法律をも飛び越える改革は、言われるからやるのではなく、「いま自社でやるべきことは何か」を考えているからこそ可能なのだ。

「いつも社員に“会社のアラを探せ”と言っているのです。必ずどこかに課題がある。見つからないのは、見ていないからです。絶えずいまを否定して、課題を見つける感性を磨く必要があります。我々は決して先手を打ってきたわけではなく、おかしいと思うことを見つけて解決してきただけです」と武井社長は神髄を語る。

いまも武井社長は「やるべきこと」の課題を探し続ける。社員にもその挑戦と闘いのDNAを引き継いでもらうために、「答えは言わず、みんなが気づくのを待っています」という。DNAは着実に受け継がれている。

「AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、5G(次世代移動通信システム)などの先端技術を使って安全確保と生産性向上を図るために、常に勉強していなければなりません。時代と共にやるべきことはどんどん増えていますね」

東京中小企業投資育成へのメッセージ

武井 宏社長

安定株主として支援してくれる投資育成からはいろいろな情報をもらい、助かっています。

今後も投資育成主催のセミナーや講演会に参加したいと思っていますが、我々のような東京からちょっと離れたところにいる会社のために、オンライン上でもセミナーを開いてほしいと思っています。

投資育成担当者が紹介!この会社の魅力

業務第五部 部長代理 稲村 亮

業務第五部 部長代理
稲村 亮

ボルテックスセイグンは、安全第一主義を守りつつ、主要顧客の化学品メーカーの要望に応える積極的な設備投資と社員の資格取得等により信頼を勝ち得て、毎期業績を伸ばしています。投資育成は微力ながら今後も成長発展を支援します。

皆様からのご要望にお応えして、本年7月からセミナーの一部についてオンライン配信を開始しましたので是非ご活用ください。

機関紙そだとう204号記事から転載

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