中小企業白書から読み解く経営のヒント

社会構造の変化と 中小企業に期待される役割

企業間連携と下請け構造からの脱却

21世紀の中小企業像

1963年に制定された中小企業基本法は、経済の二重構造論を背景に中小企業と大企業の「格差是正」を政策目標としていましたが、1999年の改正では、中小企業を取り巻く環境の変化に伴い、「独立した中小企業の多様で活力ある成長発展」を目標に定める方針転換がなされました。また、21世紀における中小企業像を、図1 のような積極的な役割が期待される多様な存在として位置づけています。

今後の中小企業に期待される役割に関し、2019年版中小企業白書では、四つの切り口から確認しています。今回はそのうち、「我が国経済を牽引する役割」「サプライチェーンを支える役割」についてご紹介します※1。

※1:四つの切り口の残り二つは、「地域経済を活性化する役割」「地域の生活・コミュニティを支える役割」。

図1

我が国経済を牽引する役割

図2・3

日本経済の停滞が懸念される中で、国際的な競争力の維持・向上が課題となり、新たな製品やサービスを生み出すための研究開発等が重要になっています。中小企業も例外ではなく、研究開発などにより技術力やサービスを向上させ、グローバルな展開を目指していくことが期待されています。

しかし、中小企業が研究開発に取り組むのは容易ではありません。図2 は、売上高に占める研究開発費の推移を示したものです。ここから中小企業は大企業と比べて金額・伸び率の面から、業種を問わず研究開発に消極的な姿勢が見て取れます。その理由として、十分な設備や人材、資金といった経営資源を必要とすることが考えられます。その点を踏まえると、外部と連携しながら研究開発を行う「オープン・イノベーション」という考え方は、中小企業にとって追い風になるでしょう。

また、外部組織と連携したことのある大企業にその相手先を確認すると、中小企業は第3位に位置していることがわかります( 図3 )。

事例1 の㈱HCIは、極細ケーブルを高速で撚るという世界トップクラスの技術力を高く評価され、大手メーカーの三菱電機と連携し、ワイヤーハーネスの自動製造ロボットシステムの開発に成功しています。

このように、大企業には中小企業との連携に対する期待やニーズがあり、中小企業においてもこのような連携はイノベーションの大きな機会といえるでしょう。

事例1

サプライチェーンを支える役割

図4


*各類型のイメージ
「変化なし」:例えば、2007年時点で上場企業と直接関係を行っていた
会社(1次)が、2017年時点でも上場企業と直接取引を行っていること
を指す。
「階層上昇」:例えば、2007年時点で上場企業と直接取引を行う
会社(1次)との取引関係を有していた会社(2次)が、2017年時点で
上場企業との取引を有するようになることを指す。
「階層下降」:例えば、2007年時点で上場企業と直接取引を行っていた
会社(1次)が、2017年時点で上場企業と直接取引を行う会社(1次)
との取引に移行することを指す。
*2019年版『中小企業白書』P374のグラフを編集部にて再編加工。

かつて、我が国の製造業は、系列取引といわれる長期安定的な関係が特徴でした。しかし、近年のめまぐるしい社会変化、経営環境の変化などを踏まえれば、既存の取引関係が今後も長期的に保証されているとはいえません。

サプライチェーンの中での役割も多様なので一概には言えないものの、中小企業も常に自社のポジションについて見直しを行うことが重要と考えられます。その可能性が示唆されるデータを確認していきましょう。本白書では、東京商工リサーチの各種データを用いて、製造業における取引関係の変化の分析を行っています。図4 は、上場企業を頂点に据えた際の取引階層を2時点で比較した際の変化について類型化を行い、その類型ごとの財務パフォーマンスを示したものです※2。

※2:各類型の詳細は2019年版『中小企業白書』P371を参照。

これを見ると、売上高については全ての類型で減少しているものの、「階層上昇」企業は「変化なし」に比べて、その減少率が低いことがわかります。また、営業利益については、「変化なし」企業が減少しているのに対し、「階層上昇」と「階層下降」企業では増加していることが確認でき、特に「階層上昇」企業ではその増加幅が大きいことが見て取れます。このデータは、取引関係は自社だけでコントロールできないものの、階層の上昇や下降にかかわらず、戦略的に自社のポジショニングを見直し、新たな取引を模索することが、業績改善につながることを示唆しているといえるでしょう。

事例2 の㈱最上インクスは、従来の「請負型」ビジネスの限界を感じ、諸々のハードルや課題がありながら、試作関連の受注に商機を見出し、「提案型」ビジネスへの転換を企図し、結果として事業機会の増大に繋げることに成功しています。

今回ご紹介できなかった事例の中にも、今後、中小企業が求められる役割に関する重要な示唆を与えてくれるものが多数あります。ぜひ何かの機会に白書をご覧いただき、今後の皆様の経営の気付き・参考に活かしていただければ幸いです。

事例2

東京中小企業投資育成株式会社
ビジネスサポート部 部長代理
たかのり
(2020年3月末まで、中小企業庁に出向)

機関紙そだとう203号記事から転載

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