投資先企業レポート

”幸せ”を目的に「No.1」製品開発

オリオン機械株式会社
太田哲郎社長

太田哲郎社長
1949年生まれ。73年に東京電機大学精密機械工学科卒業後、英国ガスコイン社、松下電器産業(当時)を経て、78年オリオン機械に入社。
91年に社長就任。趣味は音楽鑑賞、ギターなど楽器演奏も。

オリオン機械株式会社
主な事業内容:
酪農機器および冷凍機器、空圧機器、真空機器など産業機器の開発・製造・販売・保守
所在地:
長野県須坂市
創立:
1946年
従業員数:
2384名(グループ連結)

「第1回目の受賞者が京セラさんだと知って、当社もグローバルにもっと展開する企業にならなければと身の引き締まる思いです。規模にはとらわれず、世界から認められる会社になりたい」。これまでの経営成果を映して、グッドカンパニー大賞のグランプリを受賞した太田哲郎社長(70歳)はこう語る。

同社は「世界ナンバーワン製品の開発に挑戦」という長期経営方針を掲げ、ニッチ市場の中でトップシェアの製品開発を続けてきた。現在では、同社の売上高は酪農機器が約2割で、残る8割は産業機器が占める。事業分野は多岐にわたり、販売する製品は標準機で年間1700種類、カスタマイズやオーダーメイド製品を加えると7300種類以上。なぜ、これほどの開発が次々にできるのだろうか。

太田社長は「難しくて採算に乗りにくくても、将来期待できるならば、どんな注文でも受ける」方針を打ち出している。

「営業と技術者がいけると判断すれば現場判断で注文を受ける。一方、断るときは幹部も入れて、本当に断ってもいいのか、そこに将来の事業の種があるのではないかなどをみんなで話し合います。断るだけでは、営業はやる気を失って情報を持ってこなくなりますからね」と太田社長。

社内では「ワイガヤ」というミーティングを営業と技術で頻繁に開く。事務所に併設されたテーブルで「ちょっと集まって」と呼びかけて行うことが多い。

「ワイガヤで決まったことなら、上司や幹部が拒否することはほとんどない」(太田社長)という。断るときは現場で判断、難しい受注こそ協議するのが一般的だろうが、同社ではその逆をいく。幹部が現場を信頼し、かつ簡単には断らないことで、現場では気づかないビジネスチャンスを掴む好循環の仕組みが見て取れる。ちなみにワイガヤは本田技研工業が提唱したブレスト法だ。

営業と技術者一体でニーズとシーズを共有

太田社長は1973年に大学卒業後、松下電器産業(当時)などを経て78年、オリオン機械に入社。すぐ営業責任者になったが、そこでせっかく部下が受注してきた産業機械の仕事を開発部に断られるという苦い経験をする。

「酪農機器は標準品なので利益が出やすいが、当時の産業機器部門はカスタマイズやオーダーメイドで手間がかかり、採算割れも少なくありませんでした。そのため、開発部門とぶつかったり、担当者レベルで断られることもあったのです。部下が悔しさで涙を流しているのを見て、こんなことではいけないと思いました。短期的には赤字でも会社の将来のためになるなら、まずやってみるべきなのです」

営業と技術者は、時に衝突することもあるが、今では一体感が増し、一緒に顧客に出向くことも当たり前だ。技術者を営業部門に2〜3年間送り出す人事交流を進めてきたことも奏功した。営業は顧客の新製品開発情報をつかみ、どんな提案ができるのかを技術者と検討。開発部門ではシーズや業界全体の技術トレンドを分析する。例えば、レーザー加工機用のチラーは業界動向を見極め早期に投入することでヒットにつながった。現在は、次世代通信システムの5Gを見すえて研究を行う。基地局数とともに増える需要を見込んだ製品を開発中だ。

顧客からの要望に真摯に応える一方で、こうしたトレンドを先読みし、自社の強みを生かした製品を世に送り出すという両輪が、同社のニッチNo.1製品の開発を支えていると言える。

酪農機器のパイオニア 真空と冷凍技術に特化

真空ポンプで牛の乳を自動で絞る搾乳機。

真空ポンプで牛の乳を自動で絞る搾乳機。
人の手に近い繊細な絞り方を追求し、
オリオン機械のコアとなる真空技術が
確立された。

オリオン機械は現社長の父である三郎氏が46(昭和21)年に創業、57年に日本で初めて搾乳機の開発に成功した。高価な海外製しかない時代に、高性能で値ごろな搾乳機を売り出し国内の酪農家へ一気に普及。現在も酪農機器のパイオニアとして国内シェアトップ。競合を寄せ付けない強さを誇る。

酪農業界は自動化や機械化が進み、現在ではセンサーが乳牛の個体をすべて管理し、牛ごとに最適の給餌を自動的に行ったり、ロボットが乳を搾る。冷却貯蔵され、タンクローリーで集乳された原乳は、厳しい検査を受け、殺菌などの処理をされて牛乳になる。

「酪農分野では自社製品だけでなく海外も含めて酪農機器を仕入れ販売しています。搾乳機から周辺機器まで、農家が必要とするものは何でも提供します。海外ではスウェーデンに本社を置くデラバル社(テトラパックグループ)が圧倒的に強いのですが、日本でのシェアは当社の方が上回っています。というのも、海外の酪農は放牧が主流なのに対し、日本では1頭ずつ牛舎につなぐなど乳牛の飼育方法が異なり、当社は海外にない酪農機器を作っているからです。現在では、カナダやヨーロッパにも一部輸出しています」と太田社長。

工作機械などの熱源を冷却・温調するチラー。

工作機械などの熱源を冷却・温調するチラー。
顧客の要望に合わせてカスタマイズするケース
が多く、多品種少量生産している。

同社を支えているのは、酪農機器開発で培ってきた真空と冷熱技術だ。搾乳機は原理的に真空ポンプを使って乳を搾る。しかも人の手に近い繊細な搾り方が必要で、微妙な制御を行える真空技術を身につけてきた。また、生乳は適切な温度で管理・処理しないとすぐに雑菌が繁殖してしまう。そこで、同社は59年に日本初の「原乳用冷却装置」を開発した。

この二つのコア技術を応用し、65年から産業機器分野に参入。空気の排出に油を使わない真空ポンプ「ドライポンプ」を開発、あらゆる産業機器の温度を一定に保つために使われる冷却装置「チラー」、圧縮空気の水分や不純物を取り除くための「エアードライヤー(空圧機器システム)」、半導体や液晶パネル製造用クリーンルームなどの特定区域を厳密に温度管理する「精密空調機」、さらには大規模施設内の暖房や建設現場のコンクリート養生などに使われる「ジェットヒーター」など、多数の国内トップシェア製品を有している。

技術開発力に加え直販体制の充実が強み

2019年技能五輪全国大会で金メダルを受賞した 第三製造部の宮﨑大瑚さん(中央)を囲んで。

左)2019年技能五輪全国大会で金メダルを受賞した
第三製造部の宮﨑大瑚さん(中央)を囲んで。
右)半導体、液晶・太陽電池パネルなどの生産工場で活躍する精密空調機。
高い温度精度と省エネに優れた製品と評価されている。

本社工場のいたるところに置かれる「段取りコミュニケーションボ ード」。ワイガヤを行う際に、ここへ記入しながら話し合うことも。

本社工場のいたるところに置かれる
「段取りコミュニケーションボード」。
ワイガヤを行う際に、ここへ記入しながら
話し合うことも。

ドライポンプは、印刷で用紙を1枚ずつ吸い上げ、次々と送り出す装置として広く普及している。65年に初めて印刷機に搭載されて以来、国内シェアは約70%に達する。精密電子機器の製造ラインでも多く使われ、部品を瞬時に吸着して必要な場所へ搬送する装置としても不可欠な存在だ。

また、チラーは同社売上高の3割を占める主力製品だが、レーザー加工機の発熱体を冷却する装置として国内シェア約80%を占める。ほかにもMRI(磁気共鳴画像法)検査機器や金型冷却、あるいは次世代エコカーの要である水素ステーション用の冷却装置としても使われている。従来、冷却部品、水槽、ポンプ、制御機器などの部品を組み合わせ、配管や配線工事も必要だったチラーを、同社はパッケージとして作り上げ、配管をつなぎスイッチを入れればすぐ使えるようにした。しかもコンパクトで、たちまち人気商品になった。

さらに、98年に自社開発した独自のインバーター制御技術をさらに進化させ、80%という究極の省エネ率を実現する特許技術で開発した「ヒートポンプバランス制御」を搭載した精密空調機「PAPシリーズ」を2008年に発売した。

ドライポンプのユニットは20000時間で交換する必 要がある。同社では、従来は廃棄していたユニットを リサイクルし、新品同様の保証を付けて提供する新規 事業に取り組んでいる。

ドライポンプのユニットは
20000時間で交換する必要がある。
同社では、従来は廃棄していた
ユニットをリサイクルし、新品同様の
保証を付けて提供する新規事業に
取り組んでいる。

「大手とまともに競争しても無理です。当社はニッチで勝てる土俵で勝負してきました。そのためのニーズの吸い上げや技術開発力の向上ももちろんある一方、酪農機器で築き上げてきたアフターサービス力でいかに戦うか、ということも重要な要素です」

同社では全国に7社の販売子会社を持ち、販売・サービス拠点数は86カ所におよぶ。酪農機器の顧客に対しては、定期訪問して機器の稼働状況、洗浄状態の点検、消耗品の交換・補充などを行う「ルートプログラム」を提供。100台もの「ルートカー」と呼ばれるサービス車を全国に走らせ、きめ細やかなサービスを提供している。万が一、トラブルが発生したら24時間365日、1時間以内に駆けつける態勢を完備し、酪農家の信頼は厚い。

働く環境作りを重視 差別のない経営を

オリオン機械本社工場。長野の自然環境に調和した製品開発を推進している。

オリオン機械本社工場。
長野の自然環境に調和した製品開発を
推進している。

同社は当初、金属切削加工の下請けから始まったが、創業者・三郎氏の「下請けでは社員を幸せにできない」という信念から、技術力を高める仕事なら業種を問わず注文を受けた。その中で、消防用真空ポンプの仕事をきっかけに真空技術を使って搾乳機を開発、順調に成長したが、1964年東京オリンピック後の不況から倒産の危機に直面。後発メーカーにシェアを奪われ、在庫の山となり、生産調整を余儀なくされる。外部から人員整理をアドバイスされたが、三郎氏は社員のクビは切らない、と全国の販売店に頭を下げ、120名のうち30名を取引会社に出向させ、1人も辞めさせなかったという。

この間、社内改革を進めるとともに、代理店制の仕組みを整えていった。この危機に対峙したとき、経営理念の必要性を痛感した三郎氏は以下の三つを掲げる。「差別のない信頼の経営」「一級の社会人と一級の製品づくり」「全員経営と衆知の結集」

「父は、社員も社長もみな同じだと、そこからガラス張り経営を始めました。絆は強まり、出向して戻ってきた社員はみな管理職として会社を引っ張ってくれました」と太田社長。このときに同社の土台が固まり、1年後には売上が改善し始めた。

海外への進出も三郎氏の社員重視、現地貢献への思いから始まった。96年、台湾に現地法人を開設したのを皮切りに中国、台湾、韓国、タイ、インドで8社を設立、現在世界30ヵ国・地域で展開中だ。現地で技術を育て社員を雇用することが狙いで、タイ以外は現地人がトップを務める。主にエアードライヤーと真空ポンプを中心に、現地生産と販売を行っている。

国内でも高度な技能育成のため、地元長野県が2012年に開催した技能五輪全国大会での入賞を目標に、09年から冷凍空調職種部門に選手を参加させており、15年以降5大会連続で金賞メダルを受賞している。

「新人でもメダルに挑戦すると飛躍的に技能が向上するので、先輩達にもいい刺激になっています。なるべく多くの社員に挑戦してもらおうと女性も送り出し、18年にはこの職種で女性初となる金賞を受賞しました」

最近では新たなビジネスモデル構築の一環として、ドライポンプのユニットをリサイクルして再生循環を目指す新規事業を開始。「もったいない」という社内の声をもとに、使用期限で廃棄していたユニットをオーバーホールし、新品と同じ保証を付けて半値で提供。顧客の利便性やSDGsの流れを映し環境にも配慮した。

「『社員の幸せ』『顧客満足』『社会への貢献』が当社の目的ですから、そこはぶれずに発展させたいですね」

東京中小企業投資育成へのメッセージ

太田哲郎社長

社長就任前に参加していた「若手経営者の会」では10年間、立場を同じくする後継者候補の方々と切磋琢磨させていただき、そのような場を提供してくれた投資育成には感謝しています。

また、歴代の担当者や役員の方々に外部の立場から経営指導をしていただいたことが経営の透明性、管理レベルの底上げにつながっています。おかげ様で今では上場企業と比べても遜色ない経営管理水準の会社に成長することができました。

投資育成担当者が紹介!この会社の魅力

業務第四部 主任 戸田健太

業務第四部 主任
戸田健太

太田社長は、創業者の理念を引き継ぎつつ社内改革に取り組み、事業を成長させてこられました。担当者として日頃接点を持つなかで、社員の幸せと挑戦を大切にする太田社長の姿勢が、役職員に深く浸透していることを感じます。

弊社とオリオン機械は約50年のお付き合い。常に現状に満足せず、新たな挑戦を続けるオリオン機械を今後も応援していきたいと思います。

機関紙そだとう203号記事から転載

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