SBIC東京中小企業投資育成株式会社

ESG経営の成功事例に学ぶ

水も、心も「ピュアー」に!
オンリーワンの濾過技術で持続可能な社会をつくる

日本濾水機工業株式会社

天然由来の除菌フィルターで環境循環型開発に貢献

実験棟で、沸騰させた水の残存成分を検証するスタッフ。
ここで濾過に関するさまざまな検査を行う

1918(大正7)年の創業から今年で100周年を迎える日本濾水機工業(神奈川県横浜市)は、素焼き濾過筒の製造方法を開発し事業をスタート。以来、一貫して濾過・水処理関連装置の製造・販売を手がけている。現在、水処理プラントエンジニアリング事業が、売上げの約80%を占める。とりわけ、長年蓄積した無菌濾過技術を生かして、高純度が求められる注射液や輸液(点滴)などを精製する製薬用の水処理プラントに強みを持つ、独立系のエンジニアリングメーカーだ。

創業者の橋本精士氏は、もともと衛生技師だった。当時のわが国は水質が悪く、「浄水技術を海外から取り入れて、日本の衛生事情を欧米並みに改善したい、という思いが強かったようです」と、同社の橋本美奈子社長は説明する。創業時から、社会貢献に対する意識が高かったわけだ。
濾過フィルターにはさまざまな種類があるが、同社の主力製品の一つである「セラポア」は、日本で唯一の独自技術から生まれた。セラポアはセラミック製のフィルターで、珪藻土(植物プランクトンの堆積物が石化した特殊な土)を主原料とする陶土を焼成して作る。珪藻土には超微細な隙間が空いていて液体が透過でき、細菌を吸着する作用があるため、セラポアに水を通すと除菌ができるのだ。
「ほかの除菌フィルターは、目詰まりすると交換しなければなりませんが、セラポアは表面を削っていけば、100回以上繰り返し使えるので、“地球にやさしい”フィルターなんですね。また、天然由来の珪藻土でできているので、廃棄するときはそのまま土に埋められます。循環型社会システムが重視されるようになり、セラポアもあらためて脚光を浴びるようになりました」(橋本社長)

当たり前は見直す、新風入れる継続企業の前提を自社文化に

橋本社長が社員におすすめしたい本を
集積したロスイキ文庫。ビジネス書が多かった。

橋本社長は、公認会計士の資格を持ち、大手監査法人でさまざまな企業の経営を見てきた。経済産業省に2年間出向後、2010年に日本濾水機工業へ転じ、11年5月に同社取締役、14年5月、実父である橋本祐二前社長(現会長)からバトンタッチされ5代目の社長に就任した。

自らの経営目標として、「会社を200年続けるための経営基盤を整えること」「社員の笑顔が溢れる会社にすること」の2つを掲げる。 1つ目について橋本社長は、「当社には100年の実績、信用があるわけですが、事業をさらに100年継続するには、環境の変化に適応したビジネスモデルに変えなければなりません」と力を込める。2つ目の経営目標は、大手監査法人で得た経験を踏まえたもの。「楽しくないと、仕事は長続きしません。さまざまな企業を見てきて、実際に、業績を伸ばしている会社ほど、社内の雰囲気も明るく、社員がイキイキと働いていることに気づいたのです」と、橋本社長は明かす。

持続可能な経営基盤を作るには、「自分で考え、行動する社員を増やすこと」、そして「そうした社員を育成する管理職を増やすこと」が肝心だと、橋本社長。「100年後には、私はいないでしょう(笑)。だから、経営基盤は、社員の中に会社のカルチャーやDNAとして遺すしかないんですね」(同)。

社員の本音を生かしてモチベーションもアップ

橋本社長もこれを読んで初めて知ることもあるという
社内情報を満載した月刊社内報「ロスイキタイムズ」

社員の「声なき声」を吸い上げるため、橋本社長は取締役総務部長だった12 年、社員との年1回の「個別面談」を始めた。会社の要望などを社員に伝える一方、社員からも職場の印象や仕事に対する悩み、不満などをざっくばらんに聴いた(現在は、希望者のみに実施)。「私は父に比べて話がしやすかったのか(笑)、いままで知らなかった社員の本音を詳しく知ることができました」(同)。面談で得た情報は、ガバナンスに生かすようにした。

3年前からは、幹部社員を巻き込んで、会社が目指す「ミッション」をまとめるようにした。各部門ごとに共通目標のもと、社員がそれぞれ達成すべき業務目標を決め、人事考課表に落とし込んでいる。社員の評価とともに、育成も図るのが目的だ。 「個別面談も活用して、会社と個人の目標をマッチングし、会社を『社員の自己実現の場』にしてもらいたいですね」(同)。
社員の強みを科学的に解析するツールを使って、各自が業務目標を立てる研修も検討しているという。

自ら考え、行動する社員を増やす取り組みの一つとして、16年からは「社員表彰制度」を新設した。「自分で創意工夫し、業務の新しい改善提案を行った一般社員」を年1回、顕彰するもの。「管理職の推薦に基づいて、表彰する社員を選考する仕組みにしています。それによって、管理職のマネジメント能力も高める狙いがあります」(同)。受賞例としては、アプリを使って事務の入力作業を自動化した社員、濾過機器を売り込むため、取引の途絶えた顧客を再訪問して需要を掘り起こした営業部員などが挙げられる。16年に2人、17年は1人、18年には2人が受賞した。受賞者には表彰状を贈るだけで、事前通知も、賞金や記念品といった“インセンティブ”もないが、「全社員の前で褒められた社員は、モチベーションがアップし、会社に対する不満を口にすることもなくなる、といった変化が見られました」(同)。

社員教育のため、社内に橋本社長の蔵書をベースにした「ロスイキ文庫」も設けた。現在、本棚にはビジネス関連を中心に約50冊の書籍が並べられ、社員は誰でも自由に手に取り、借り出すこともできる。「社員がポケットマネーでは買わなさそうな本を、あえて集めました。社員の何かの気づきに役立てればいいなと考えています」(同)。また、17年7月には、プロの記者が取材する月刊社内報「ロスイキタイムズ」を発刊し、社内のニュースやイベントを紹介するなど、情報の共有化を図っている。

安心して働き続けられる多様な就労機会を増やす

橋本美奈子社長

人材確保が難しくなっているなか、社員が働きやすい職場にするため、「働き 方改革」にも取り組んでいる。4、5年ほど前からは、総務部で試験的に「ワークシェアリング制度」を開始。派遣社員が毎日、フルタイムで勤務していたのを、2人のパートが手分けして、1週間に2、3日ずつ働く体制にした。「狙いは2つありました。一つは、時短勤務ができる環境にして、家事や育児、介護などに追われる女性に就労できる機会を与えること。もう一つは、多様なマンパワーを取り入れること。とりわけ、総務部の業務は、庶務、社会保険・労務、ITなど多岐にわたるのですが、それだけの幅広い業務を一人でこなすことは難しい。ワークシェアリングなら、各ジャンルのエキスパートを雇うこともできます」(同)  ワークシェアリングは、総務部で定着すれば、ほかの部門にも拡大を検討中だ。

人事制度も大幅な刷新に着手している。社員の個別事情に応じて、業務内容をフレキシブルに変更できるようにしたこともその一つ。例えば、営業事務だった女性の派遣社員は、家庭の事情でフルタイムの勤務が難しくなっていたが、橋本社長は時間に縛られずに働ける契約社員として改めて雇用。いま彼女は営業担当として実績を上げているという。また、能力と意欲があれば、性別や年齢、職種を問わず、抜擢する仕組みに改めた。例えば、営業事務を担当している女性社員は、従来昇進は前提とされていなかったが、営業事務でも管理職に昇進可能な人事制度とした。社員に刺激を与え、やる気を引き出すためだ。  一方、同社は創業以来、横浜市を事業基盤としており、地域貢献にも熱心だ。最近では、地元の中学校に楽器を寄贈したり、市内の母子サポート施設へ寄付を行った。橋本社長は、「地域社会も、当社の大切なステークホルダーであり、恩返しをしなければなりません。水をピュアーにする仕事なら、人の心もピュアーにするべきというのが、当社のコンセプトなのです」と話す。
「液体のあるところ、必ず濾過のニーズあり」と強調する橋本社長。日本濾水機工業は現在、ベアリング向けの切削用油の再利用、果汁や微生物培養液の濾過といった水以外の濾過関連事業を強化しているほか、浄水設備が普及していない新興国など、海外市場への進出を視野に入れる。同社の次なる100年に向けた歩みは、はつらつとした風を受けて着実に進んでいるようだ。

寄付を行った。橋本社長は、「地域社会も、当社の大切なステークホルダーであり、恩返しをしなければなりません。水をピュアーにする仕事なら、人の心もピュアーにするべきというのが、当社のコンセプトなのです」と話す。
「液体のあるところ、必ず濾過のニーズあり」と強調する橋本社長。日本濾水機工業は現在、ベアリング向けの切削用油の再利用、果汁や微生物培養液の濾過といった水以外の濾過関連事業を強化しているほか、浄水設備が普及していない新興国など、海外市場への進出を視野に入れる。同社の次なる100年に向けた歩みは、はつらつとした風を受けて着実に進んでいるようだ。

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