SBIC東京中小企業投資育成株式会社

経営権の意味を理解しよう

会社の安定的な経営を継続するには

現経営者や後継者が安定的な経営を持続するためには、安定経営が可能な株主構成を実現する必要があります。
どのような場合に安定経営が可能になり、どのようなときに安定が崩れてしまうのか、留意しておくべき点と対策をまとめました。

経営権とは?

経営権は実定法上の概念ではなく、議決権の一定以上を取得し企業経営に携わる権利のことで、経営者が安定した経営を継続するためには、少なくとも過半数の議決権を確保する必要があります。

議決権とは、株主総会で株主として会社経営に係る事項の意思決定を行うことができる権利のことです。株式会社が意思決定を行うためには、株主総会を開く必要があります。会社法で、株式会社の最高意思決定機関が株主総会であると定められているためです(会社法295条1項)。

株主総会で決めなければならない事項には、取締役の選任や資本金の増加等があり、これらも会社法によって決められています。

安定的な経営を実現するためには、株主総会で、経営陣の方針どおりの決定が行える状況を作る必要があります。そのため、経営陣は重要な意思決定に必要なだけの議決権を確保しなければいけません。

経営者はどれだけの議決権を確保すべきか

株主総会で検討される決議には、「普通決議」「特別決議」「特殊決議」の3種類があります。

・普通決議
普通決議による決議事項は、計算書類の承認や剰余金の配当・処分、自己株式の取得、準備金の増加・減少、資本金の増加などです。
定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数の賛成により成立します(会社法第309条1項)。

・特別決議
特別決議による決議事項は、定款変更や募集株式の発行、組織再編といった事項などです。
株主総会において議決権を行使できる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもつ株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の賛成により成立します(会社法309条2項)。

つまり、議決権の過半数を確保すれば株主総会の普通決議を可決することができ、3分の2以上を確保すれば特別決議を可決することができるということです。
そのため、一般的に、総議決権の過半数、できれば3分の2以上の議決権を経営者が持つことができれば、安定した経営ができるといわれています。

・特殊決議
特殊決議は、会社法309条3項と会社法309条4項によって2種類に分かれます。
それぞれの決議事項や決議に必要な条件は次のとおりです。
<特殊決議(会社法309条3項)>
特殊決議(会社法309条3項)による決議事項は、全部の株式を「譲渡制限株式」とする定款変更などです。
議決権を行使することができる株主が半数以上出席し、なおかつ当該株主がもつ議決権の3分の2以上の賛成で議決します(定款で、必要議決権の割合を、3分の2を上回る数値に変えることが可能です)。
<特殊決議(会社法309条4項)>
特殊決議(会社法309条4項)は、非公開会社において、剰余金の配当受領権・残余財産分配権・議決権に関して株主毎に異なる取扱いを行う旨を新たに定款に定めるときや、その内容を変更する場合に必要となる決議方法です。
すべての株主のうち半数以上が出席し、なおかつすべての株主が持つ議決権の4分の3以上の賛成で議決します(定款で、必要議決権の割合を、4分の3を上回る数値に変えることが可能です)。

このように、特殊決議では株主の頭数要件がありますので、単に議決権を確保するだけでは可決することができず、経営者のほかに味方となる株主を確保する必要があります。

過半数を持っていても安心できない拒否権の存在

総議決権の過半数を経営者が持ち、それ以外の株式を従業員などの安定株主(長期的に株式を保有する経営者に協力的な株主)が持っていた場合は、安定した経営を行うことができます。

ところが、経営者が保有する株式以外で、総議決権の3分の1超を、経営者に敵対する株主が持ってしまうと、経営の安定が崩れるおそれが出てきます。
総議決権の3分の1超を保有する株主は、株主総会の特別決議の成立を阻止する権利、つまり拒否権が発生するからです。

会社の安定経営を盤石にするためには、経営者と安定株主の持つ議決権が3分の2以上になるように株主構成を調整する必要があります。

■株主総会における議決権割合と効力

議決権割合 効力
3分の2以上 ・株主総会の特別決議を成立させることができる
・自身を含め、議決権を行使できる安定株主が合わせて半数以上いる場合、株主総会の特殊決議(会社法309条3項)を成立させることができる
過半数(2分の1超) ・株主総会の普通決議を成立させることができる
3分の1超 ・株主総会の特別決議の成立を阻止できる
4分の3以上 ・自身を含め、安定株主が合わせて全株主の半数以上いる場合、株主総会の特殊決議(会社法309条4項)を成立させることができる

※参考書籍:中野威人「安定した経営を継続するための Q&A 中小企業における「株式」の実務対応」(清文社、2020年)

経営権の安定性が崩れるケース

経営権が安定しているかどうか、また、将来的に安定が保てるかどうかは、随時確認しておく必要があります。安定性が崩れるリスク要因には、以下のようなケースが挙げられます。

経営者が交代するとき

経営者が交代するということは、現経営者が保有している株式を後継者に渡す必要があるということです。後継者に対してすべての株式を渡せない場合、これまでは安定していた経営権がゆらぐ可能性があります。
また、現経営者にとっての安定株主が、後継者にとっての安定株主にはならない場合もあります。現経営者の友人や兄弟姉妹といった、後継者にとってそれほど近しい間柄ではない株主がいる場合などがその例です。

経営者に相続が発生したとき

経営者が亡くなって相続が発生した場合、状況によっては経営の安定性が崩れる大きなリスク要因となります。法定相続分どおりの遺産分割が行われた場合、株式が複数の相続人に分散されることになり、後継者が経営権を持てなくなってしまうことがあるのです。

株主に相続が発生したとき

安定株主であるはずの親族や社員の相続にも注意が必要です。株主が亡くなり、会社との関わりが薄い人物に株式が渡ってしまったり、複数の相続人に株式が分散されたりすることで、経営の安定性が崩れる可能性があります。

経営権を安定させる3つの方法

経営権を安定させるためには、株主構成の見直しや株式の設計の変更が効果的です。具体的な手法を3つご紹介します。

経営者が3分の2以上の株式を保有する

経営者が単独で3分の2以上の株式を保有していれば、経営は十分に安定します。
後継者に事業を引き継ぐ際も、経営者が保有する株式をすべて渡すことができれば、経営の安定が崩れることもありません。とはいえ、譲渡の際にかかるコストの問題や、ほかの相続人との関係で実現が難しい場合もあります。

経営者に協力してくれる安定株主を含めて3分の2以上を目指す

経営者に長期的に協力してもらえる安定株主を探して、経営者と安定株主が持つ議決権の合計を3分の2以上にする方法について解説します。さらに、経営者と安定株主の総数が、全株主の半数以上であれば、特殊決議(会社法309条3項)の可決も視野に入ってきますが、まずは普通決議と特別決議を可決できるようにしておくと良いでしょう。

安定株主には、経営者の親族や従業員、取引先、東京中小企業投資育成株式会社などが挙げられます。それぞれの特徴について、下記にまとめました。
なお、かつては金融機関が安定株主となることもありましたが、株式持ち合いの解消が進められている状況の中で、新たに安定株主になってもらうのは期待しにくい情勢となっています。

・経営者の親族
経営者にとって、最も安心でき、信頼の厚い安定株主が親族でしょう。
しかし、親族の相続や経営者の交代によってお互いの関係が希薄になることで、安定性が崩れるケースがあります。
・従業員
役員や従業員も、会社の経営に協力してくれる安定株主と考えることができます。
ただし、退任や退職時における株式の扱いについては、しっかり定めておく必要があります。
・取引先
取引量の多い取引先を安定株主とすることで、より密接な関係を築くという手法もあります。しかし、取引量の変動などによって関係が薄れてしまった場合は注意が必要です。
また、取引先を株主にした場合は、自社の決算内容を知られることにもつながりますので留意する必要があるでしょう。
・東京中小企業投資育成株式会社
東京中小企業投資育成株式会社は、中小企業の支援を行う国の政策実施機関です。
資本金3億円以下の中小企業を対象に、議決権比率が50%以下の範囲内で出資を行い、長期的な安定株主として経営陣の後方支援を行います。
株式を他社が保有するというと、経営への関与が心配になる人も多いでしょう。しかし、議決権比率が50%以下の範囲内での出資ですので、東京中小企業投資育成会社に経営権が渡ることはありません。東京中小企業投資育成会社では、投資先企業に対する経営干渉や役員派遣を行わず、配当を期待する株主として、長期にわたり経営の良き相談相手となりますので、長期安定株主として経営の安定に役立てられます。

株式の構成を見直して議決権の整理をする

株式は、通常1株につき1個の議決権を持ちますが、株式の設計を変更することで、単純な持ち株数によって経営権が左右されないようにすることができます。
会社の株式の構成を今一度チェックし、議決権を持たない無議決権株式や、株主総会の決議に対する拒否権を持つ拒否権付株式などを活用して、議決権の整理をしましょう。

・無議決権株式
無議決権株式とは、株主総会の決議に参加することができない、文字どおり「議決権のない」株式のことでほかの株主よりも優先的に配当を受け取れる配当優先の設計を組み込んで、配当優先無議決権株式とするケースが多くみられます。
この無議決権株式を活用することで、経営者の議決権比率が低い場合であっても、経営権を確保できるように議決権の調整が可能となります。経営に関心がない株主に対して活用を検討しましょう。
・拒否権付株式
拒否権付株式とは、あらかじめ定めた事項について、株主総会の決議における拒否権が得られる株式のことです。
拒否権付株式を持っていることで、取締役等の選任・解任、事業譲渡など、あらかじめ定めた重要事項を決議する際に自身の意に反する内容であれば拒否することができますから、経営者以外の株主に対する強力な対抗策になります。例えば、後継者が拒否権付株式を持つことで、株式の数に関係なく、経営に不利な状況を作りにくくできるのです。
・属人的定め
非公開会社については、剰余金の配当を受ける権利、残余財産の分配を受ける権利、株主総会における議決権に関する事項について、株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができます。
この属人的定めを活用することで、特定の株主の議決権や配当の割合を変えることができるようになります。例えば、経営者が保有する株式について、定款で議決権を1株につき1個ではなく、1株につき10個といった属人的定めをすることで、議決権の確保に役立ちます。

長期的な経営権の安定のために株主構成を常に意識する

経営権を安定させるためには、常に株主構成を意識した経営を行う必要があります。
今の株主構成が、中長期的な目で見たときも安定経営を実現できるものであるかどうか、定期的に検討しましょう。株主構成に問題がある場合の対策方法にはさまざまなものがあり、専門家の協力を得たほうがスムーズにいくことが多いでしょう。
東京中小企業投資育成では、国の中小企業政策の実施機関という真に中立的な立場で、フルカスタムメイドの最適提案を行っていますから、株主構成に悩んだときはぜひご相談ください。

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