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親族内承継のメリットと注意点とは?スムーズな事業承継のために

自身が経営している事業を、いずれ自分の子供や兄弟に継がせたいと考えている経営者は多いでしょう。実際のところ、中小企業における事業承継の形態の割合では、親族内承継が55.4%と半数以上を占めています(中小企業庁「2019年版 中小企業白書・小規模企業白書」より)。
親から子といった親族内での事業承継は、昔から当たり前のように行われてきました。しかし、事前に準備もせず、突然の引退や相続によって子供に事業を継がせようとしても、さまざまな問題が生じてうまくいきません。
スムーズな承継を行うために知っておきたい、親族内承継のメリットや注意点、手順についてまとめました。

親族内承継とは?

親族内承継とは、親族を後継者として事業を承継することです。
「親の会社を子供が継ぐ」「兄の会社を弟が継ぐ」といったケースが親族内承継にあたります。

親の代から子供の代へと事業を承継することは、ごく一般的に行われていることですが、子供に限らず、弟や妹、孫、甥、姪などへの承継もすべて親族内承継にあたります。また、血縁関係はありませんが、配偶者への承継も親族内承継にあたります。

親族内承継のメリット

親族内承継は、さまざまな事業承継の方法の中で、最もよく利用されている方法といえるでしょう。この方法が一般的となっているのは、親族内承継にメリットがあるからと考えられます。
ここでは、親族内承継を行う主なメリットを、4つまとめました。

気心の知れた親族に大切な事業を引き継げる

事業を承継するということは、経営者がこれまで育ててきた事業を次の世代に渡すということです。
大切な事業を渡す相手は、できれば人となりがわかっている、確かな人物を選びたいもの。そこで、他人ではなく気心の知れた親族の中から選ぶことができれば、安心感が得られるでしょう。
特に、自分の子供に対しては、「自分の後を継いで事業を継続してほしい」と考える経営者も多いのではないでしょうか。また、親族の中から後継者を選ぶというのは、後継者の人となりが確かであれば、ほかの親族からも同意を得やすい選択でもあります。

取引先や従業員の理解を得やすい

企業の関係者である取引先や従業員にとっても、「親族が後継者になる」というのはよくあることであるため、納得しやすい選択です。

「準備もなく従業員の一人を後継者に指名する」「外部から人を招き入れて後継者にする」というケースよりも、事前に周知している親族から後継者を選ぶほうが、従業員の理解も得やすくなります。銀行融資を受けている場合も、後継者が親族であれば、現経営者が受けている融資をそのまま引き継がせてもらえる可能性が高まるでしょう。

また、親族であれば、早い段階から後継者として取引先に紹介をすることもできます。実際に承継を行う前から関係を築いていくことができるため、経営者を交代した後もスムーズに取引を続けやすいというメリットがあるのです。

限られた後継候補者から選ぶことができる

親族内承継では、基本的に後継者候補は自分よりも年下の親族ということになるでしょう。子供が1人であればその子、複数いる場合は長子など、自ずと誰を後継者にするのかは決まってきます。長男や長女が事業を継ぐことを希望しない場合も、次男や次女、または甥・姪など、数人の親族の中から適任者を選ぶことになります。

一方、親族以外の後継者を選ぶ場合は、従業員や外部の人間から後継者を選択します。選択肢は親族内承継の場合よりも多くなる上に、よほど信頼の置ける人物でなければ周囲は納得せず、血縁関係の近さといった決め手となる要素もないため、後継者を決めかねることもあるでしょう。そうなると、いつまでも後継者を決められずに、ずるずると事業承継の準備が先送りされてしまうことにもなりかねません。

時間をかけた後継者の育成が可能

親族内承継は、ほかの事業承継の方法と比べて、早い段階で後継者を決めることができます。そのため、長い期間をかけてじっくりと、後継者としての教育を進めることができるのです。
例えば、子供に事業を継がせる場合、子供が会社に社員として入社してから、実際に事業承継を行うまでのあいだが、経営者としての育成期間ということになります。22歳で入社し、42歳で継いだ場合でも20年間もの時間がありますから、自社の事業や経営のこと、業界についてなど、必要な知識を身につけるのに十分な期間だといえるでしょう。

親族内承継のデメリット

メリットの多い親族内承継ですが、事前準備もなく行うと親族間トラブルや金銭面などの問題が起こる可能性もあります。どのようなリスクがあるのかを知り、対策をとっておきましょう。

親族内に適した人材が見つからないことがある

親族内承継は、後継者を決めやすいというメリットがありますが、選択肢がそれほど多くないことから、適任者が見つからない場合があります。いくら親が子供に事業を継がせたいと考えていても、子供自身にそのつもりがなければ、無理に後継者にすることはできません。また、能力的に後継者に適していないと感じる場合もあるでしょう。
親族に後継者がいない場合は、従業員や外部から後継者を選ぶことになりますから、自身が健康であるうちに親族内で承継できるか否か、後継者の見極めと育成を始めたほうが良いでしょう。

まとまった資金を用意しなければならない

親族内承継を行うためには、現経営者が持つ株式を後継者に渡す必要があります。しかし、贈与すれば贈与税がかかり、相続すると相続税がかかります。
その他には、現経営者の持つ株式を後継者が買い取るという方法がありますが、この場合も買い取るための資金が必要です。
生前贈与や受け皿会社の設立など、株式の移動に際しての負担を少なくするための選択肢はいくつか存在しています。早い段階から、自社に適した方法を考えておきましょう。

意識的に後継者育成を行う必要性がある

親族内承継の場合、早い段階から意識的に後継者育成を行っていく必要があります。
従業員や外部の人間に後を継がせる場合は、経営に関する知識が十分に身についている者を選ぶでしょう。しかし、親族であるという理由で後継者を決める場合、意識して育成を行っていかなければ、現経営者の引退までに経営者としての育成が間に合わない可能性があります。
候補者として親族を選ぶ場合は、早い段階から経営に携わらせるようにしましょう。

親族間トラブルになる可能性がある

子供が複数人いる場合や、親族間で後継者を誰にするか意見が分かれてしまった場合など、親族内承継がそのまま親族間のトラブルに発展することもあります。

特に、経営者の子供が後を継ぐ場合は、相続問題にも関係してきます。子供が複数いる場合でも後継者は1人ですから、後継者となった一人が現経営者の持つ株式を優先的に取得することになります。ほかの法定相続人には遺留分が認められているため、後継者以外の相続人から遺留分を請求されることもあるでしょう。このようなケースでは、後継者が自社株式を買い取ることで、株式を相続財産の遺留分の対象から外したり、後継者以外の相続人に対して遺留分相当の現金を支払ったりといった対処を行う必要があります。

また、親族間での情報共有や話し合いができていないために、経営者側の気持ちと後継候補者や親族側の気持ちにずれが生じてしまうこともあります。お互いの意識に相違があると、後継者の育成や承継の準備が予定より大幅に遅れる原因となってしまいます。さらに、トラブル解消のための時間を取られるなどで、経営に支障が出てくる可能性も考えらます。
親族内で承継を行いたいと考えている場合は、できる限り早い段階から、親族内で将来について話し合っておきましょう。

親族内承継の流れ

親族内承継を実行する際の、おおまかな流れを見てみましょう。いつ、何をすべきなのかを考えて、計画的に進めていくことが、スムーズでトラブルの少ない事業承継につながります。

<親族内承継を行う8つのステップ>
1. 後継者を決める
2. 経営者としての育成を行う
3. 株式移動の方法について検討する
4. 株式の移動のための資金を準備する
5. 相続時に株式を移動する場合は遺言を作成する
6. 遺留分への対処を行う
7. 周囲に後継者を周知させ、理解を求める
8. 承継を行う

このうち、3~6に関しては、税理士などとも相談しながら検討と準備を重ね、事業を引き継ぐ後継者の負担が大きくならない方法を選択します。
そして、状況に応じて、移動コストの抑制や資金の準備を進めましょう。また、相続財産のほとんどを株式が占めている場合など、遺留分の請求に応じるための現金がない場合は、事前準備をしておく必要があります。

株式の承継の3つの方法

株式の承継は、「相続」「生前贈与」「売買」の3つの選択肢の、いずれかの方法で行います。一般的に、かかる資金負担は売買が最も大きく、次いで生前贈与、相続となりますが、最適な方法は会社の状況によって異なります。各方法の特徴は次のとおりです。

■後継者への株式の移動方法

相続

相続による親族内承継が行われた場合、法定相続分どおりに株式を分配すると、複数の法定相続人のあいだで株式が分散し、意図しない人物が株主となる可能性が高まり、後継者が安定的な経営権を取れなくなるおそれがあります。また、事前の準備が十分にできていなかった場合には、税金の問題も発生します。

準備不足のまま相続が起こることがないよう、あらかじめ遺言を作成しておいたり、事業承継税制の利用を検討したりといった準備を進めておく必要があります。

生前贈与(暦年贈与、相続時精算課税)

生前贈与は、現経営者が存命のうちから、暦年贈与や相続時精算課税を利用して株式の贈与を順次行っていく方法です。
暦年贈与は年間110万円以下であれば、贈与税がかかりません。また、相続時精算課税は、軽減された贈与税を一旦支払いますが、相続が発生したときに改めて相続財産として税金を計算し直して、差額を納めます。その相続税の計算に際しては、相続時点ではなく贈与時点の株価を用います。相続時に株価が上がっていて、贈与時よりも価格が高ければ、税額で有利になることがあります。

■暦年贈与と相続時精算課税の比較
項目 暦年贈与 相続時精算課税
概要 歴年(1月1日から12月31日までの1年間)ごとにその年中に贈与された価額の合計に対して贈与税を課税 選択制により、贈与時に軽減された贈与税を納付し、相続時に相続税で精算する(一度選択すれば、相続時まで継続適用)
贈与者 制限なし 60歳以上
受贈者 制限なし 20歳以上の推定相続人である子および孫
控除額 基礎控除額:毎年110万円 特別控除額:2,500万円
税率 10%~55%の累進課税 特別控除額を超えた分について、一律20%
相続時 ―― 贈与財産について贈与時の時価で相続財産と合算して相続税を計算し、贈与時に納めた贈与税との差額を精算
※参考書籍:中野威人「安定した経営を継続するための Q&A 中小企業における「株式」の実務対応」(清文社、2020年)

売買

売買は、経営者の株式を後継者が買い取る方法です。
後継者が資金を用意して直接買い取る方法のほか、後継者が受け皿会社を設立して外部から融資を受け、その資金で株式を買い取ることもできます。

親族内承継を行う際の注意点と対策法

親族内承継を行う際は、関係者の多くが親族となります。近しい間柄なら安心だと思ってしまいがちですが、だからこそ対策すべき点もあることを意識しておきましょう。

親族関係に配慮しながら話し合う

親しい親族だからこそ、かえって遠慮をしてしまったり、衝突したりすることもあります。
経営者の持つ株式は、相続にも絡む問題ですから、場合によっては、ほかの相続人や配偶者と意見が対立する可能性も考えられます。また、親族間で後継者争いが勃発する可能性もあるでしょう。親族間の関係が険悪にならないよう、十分な配慮をしながら手続きを進める必要があります。

また、後継者と現経営者のあいだの話し合いも十分にしておかなければいけません。後継者の側からは、現経営者の引退や方法について口に出しづらい可能性もあります。事業承継にあたっては、経営者と後継者の双方が当事者意識を持って前向きに取り組んでいく必要があるでしょう。子供の側から後継者についての話を持ちかけられても、気分を害さずに耳を傾けるようにしてください。

後継者に合わせて現在の株主の見直しを行う

同族会社の場合、経営者の兄弟などが株主になっている場合があります。現経営者とのつながりは深くても、後継者にとっては関わりが薄いこともあるでしょう。
「会社の方針についての意見を言いづらい」「重大な決議に際して賛成してくれる確信が持てない」など、後継者が不安を感じる原因になりますから、後継者が安定経営を行えるよう、株主構成を見直す必要があります。

ほかの株主の相続にも注意が必要

複数の親族が株式を保有している場合、それぞれが亡くなって相続が起こることで、現在の株主や会社との関係性が薄い親族が株主になるリスクがあります。たとえ保有株式が少なかったとしても、株式の分散が起こる原因になりますから、日頃から株主構成に気を配り、適宜株式を買い戻す、無議決権株式を活用するなどの手を打つ必要があります。

親族内承継は十分な準備期間を設けて計画的に進める

親族内承継を問題なく行うためには、時間をかけて十分な下準備をしておく必要があります。
後継者の選定や育成だけでなく、株式の移動方法の決定や実行にも、時間とコストがかかります。準備が不十分なまま相続が起こってしまうと、株式の散逸や多額の相続税の発生、相続争いといったトラブルの火種になります。

まずは、親族内での後継候補者の目処を立てたら、親族間の話し合いを十分に行い、計画的に進めていくことが大切です。親族同士の話し合いはこじれる可能性がありますので、専門家などの第三者を挟むことでスムーズな親族内承継につなげましょう。
東京中小企業投資育成株式会社では、親族内承継に関するご相談も随時受けつけていますので、いつでもお気軽にお問い合わせください。

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