安定経営のためにできること
企業経営において、今は安定しているとしても、将来もその安定性が確保できるとは限りません。経営者や株主の交代などによって、いつかは株主構成を見直さなければならない時期がやってきます。その際、安定的な経営権を確保するためにはどのような選択肢が考えられるのでしょうか。
ここでは、安定経営とはどのような状態を指すのかを解説した上で、どのような場面で経営の安定性が崩れる可能性が生じるのかをご紹介します。中小企業が安定経営を確保するための選択肢のひとつである、東京中小企業投資育成株式会社の活用についても見ていきましょう。
安定経営とはどのような状態?
企業の経営権の安定性を図るためには、株主総会における議決権の保有割合の高さがひとつの指標となります。
ここではまず、株主総会決議にはどのような種類があるのかを踏まえつつ、安定した経営権を得るために必要な総議決権の保有割合について見ていきましょう。
株主総会決議の種類
会社法では、株主総会が株式会社の最高意思決定機関とされ、株主総会決議が必要な事項が定められています。その株主総会決議での議決権割合が多いほど、会社に対する支配権も強くなるのです。
非公開の取締役会設置会社の場合、株主総会の決議は次の3種類に分けられます。
・普通決議
・特別決議
・特殊決議
決議の種類によって主な決議事項が定められており、定足数(議事を進め、決議に必要な最小限度の出席数)や決議要件もそれぞれ異なります。
■株主総会の決議の種類とその具体的内容
決議種類 | 定足数 | 決議要件 | 決議事項 |
普通決議 | 議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主の出席 | 出席した当該株主の議決権の過半数の賛成 |
・自己株式の取得 ・取締役の選任・解任 ・監査役の選任 ・株式会社と取締役との間の訴えにおける会社の代表者選定 ・計算書類の承認 ・資本金の額の増加 ・準備金の額の増加 ・剰余金の処分 ・剰余金の配当 等 |
特別決議 | 議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主の出席 | 出席した当該株主の議決権の3分の2以上の賛成 |
・譲渡不承認の場合の会社による買い取り ・特定の株主からの自己株式の取得 ・全部取得条項付種類株式の取得 ・譲渡制限株式の相続人に対する売渡請求 ・株式の併合 ・監査役の解任 ・資本期の額の減少 ・金銭以外の配当 ・定款変更、事業譲渡等、解散 ・組織変更、合併、会社分割、株式交換、株式移転 等 |
特殊決議 | ー | 議決権を行使できる株主の半数以上(人数)、かつ、その株主の議決権の3分の2以上の賛成 | ・公開会社から非公開会社への定款変更 等 |
ー | 総株主の半数以上(人数)、かつ、総株主の議決権の4分の3以上の賛成 | ・非公開会社において、剰余金の配当残余財産の分配、株主総会における議決権につき株主ごとに異なる取り扱いを定める定款変更 |
安定した経営権を得るために必要な総議決権の保有割合
安定した経営権を経営者が得られるかどうかは、総議決権の保有割合によって左右されます。
例えば、総議決権の過半数を保有していれば、普通決議は意のままに決められることとなります。この場合、特に取締役選任・解任ができるという点が重要です。
さらに、総議決権の3分の2を保有していれば、定款変更、増資、組織改編などを決める特別決議も成立させることができます。
反対に、3分の1超を敵対的株主に保有されると、特別決議を否決されてしまうこともあるのです。
全株式を経営者が単独で保有していることが最も安定していますが、実際はそのようなケースはあまり多くありません。
最低でも過半数、できれば3分の2以上を保有しておきたいところです。そうすれば、重要な意思決定事項についても他の株主の意向に左右されることなく進められ、経営の安定化を図ることができるでしょう。
■株主総会における議決権割合と効力
議決権割合 | 効力 |
3分の2以上 | 株主総会の特別決議成立 |
過半数 | 株主総会の普通決議成立 |
3分の1超 | 株主総会の特別決議成立を阻止 |
安定性はどのような場面で崩れる可能性がある?
中小企業の経営において、安定性が崩れる可能性があるのは、どのような場面なのでしょうか。
ここでは、3通りのケースを見ていきましょう。
経営者の交代
どんな企業でも、いずれ経営者が引退し、事業承継の時期がやってきます。その際、経営者の保有するすべての株式を後継者へスムーズに引き継げることが理想ですが、後継者以外に株式が分散してしまうこともあります。そうなってしまうと、安定性が崩れる場合があります。
株主側の相続による交代
経営側ではなく、株主側の相続による交代によって経営の安定性が崩れてしまう可能性も考えられます。
例えば株主に相続が発生し、その子供たちに株式が相続されたとしても、先代株主のように会社経営を理解し、支援してくれるとは限りません。
このような株主側の相続による交代が進むにつれて、経営側と株主との円滑なコミュニケーションがとれなくなってくる可能性もあるのです。
後継者が継いだら株主構成を見直す必要がある場合も
先代経営者にとっては安定株主でも、後継者にとっては赤の他人で、安定株主とならないケースもあります。
このような場合、後継者がリーダーシップをとれるように株主構成を見直さなくてはなりません。
安定した経営権を確保するためにできること
株主構成を見直すにあたって、安定的な経営権を確保するための選択肢としてはどのようなものがあるのでしょうか。
経営者に株式を集中させることが基本
安定的な経営権を確保するための基本は、経営者に株式を集中させること。後継者へ株式を移動する場合も、まずは後継者に株式を集めることを優先して考えましょう。
株式が分散している場合の対処法
実際は、移動コストの問題や他の相続人を考慮する必要性もあり、経営者だけにすべての株式を集中させることは難しい場合もあります。
株式が分散してしまっている場合は、株式の設計を変更する、または安定株主を導入するといった選択肢を検討する必要があるでしょう。
東京中小企業投資育成株式会社の活用
安定した経営権を確保するための選択肢のひとつとして、安定株主の導入を挙げました。安定株主とは、経営者の意図に賛同してくれる長期保有株主のことをいいます。
安定株主の主な候補としては、経営者の親族や非同族の役員・社員、取引先、金融機関などがあります。しかし、実際は、中小企業がこうした候補先から新たな安定株主を迎え入れることは難しいのが現状です。
そこで、もうひとつ安定株主の候補先として考えられるのが、東京中小企業投資育成株式会社です。
東京中小企業投資育成株式会社とは?
東京中小企業投資育成株式会社は、「中小企業の自己資本の充実と健全な成長発展を図る」ことを目的に、中小企業投資育成株式会社法にもとづいて、当時の通商産業省が1963年に設置した国の政策実施機関です。都道府県、商工会議所、民間金融機関などから出資を受け、東京・名古屋・大阪に3社設置されています。
現在も、経済産業省中小企業庁の監督を受けながら、中堅・中小企業への投資を通じて、株主としての立場から経営支援にあたっている組織です。
■東京中小企業投資育成株式会社の仕組み
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同社の出資対象となるのは、資本金3億円以下の中小企業です。議決権比率が50%以下の範囲内で出資を受けることができます。
東京中小企業投資育成株式会社の特徴は、株式の保有期間の定めがないこと。長期間にわたって出資先企業の自主性を尊重する株主として、安定経営の後方支援を行います。
また、出資先企業には経営干渉や役員派遣を行わず、配当を期待する株主として企業の良き相談相手となるという役割もあります。公的機関という性格もあり、中小企業にとっては安心できる長期安定株主の候補となりうるでしょう。
株主構成の見直しのために活用する企業も増えつつある
近年は、自己資本の充実以外にも、株主構成を見直すために東京中小企業投資育成株式会社を活用する企業も増えてきました。また、親族外の後継者への承継の際に、東京中小企業投資育成株式会社の出資を活用するというケースも増えています。
例えば、同族経営から非同族経営へ移行する場合、東京中小企業投資育成株式会社が経営陣を支援する長期安定株主となることでスムーズに移行し、経営の安定化を進めることができます。
さらに、非同族経営の会社でも、東京中小企業投資育成株式会社が核となるような長期安定株主となることで、経営者の交代時にも安定的な経営の継続が可能となるでしょう。
安定経営を継続するために安定株主の導入を
中小企業にとって、株主は一人ひとりが無視できない存在であるケースがほとんどです。安定経営を実現・継続するためにも、株主構成を見直したり、新たな安定株主を導入したりする必要があります。
そして、安定株主は、長期にわたって円滑なコミュニケーションを継続できる存在でなければなりません。その選択肢のひとつとして、東京中小企業投資育成株式会社を活用することを検討してみてはいかがでしょうか。