SBIC東京中小企業投資育成株式会社

まとめ

新卒採用の成否は説明会の
準備段階ですでに決まっている

採用コンサルタント 谷出正直さん

自社の魅力を十分理解し しっかりと伝えることが大事

たにで・まさなお
1979年、奈良県生まれ。
エン・ジャパンで、新卒採用支援事業に
約11年間携わり、独立。
新卒採用のコンサルティング、
採用アナリストとして活動。NHK、
日本経済新聞、プレジデントなど
各種メディアに年間170本以上、取り上げられる。

中小企業の経営者の中には「採用がうまくいかないのは人手不足のためだ」と考えている人が少なくない。本当にそうだろうか。私はもっと別のところに原因があると感じている。それは、経営者自身が自社の魅力を理解できておらず、学生にしっかり伝えることができないからだ。それを抜きに、お金をかけて求人広告を出したり、合同説明会で学生と接触回数を増やしたりしても意味がない。会社の魅力が学生に伝わらなければ、「この会社で働きたい」と思ってくれないのは当然だ。新卒採用では説明会が要となるが、そこで何をどう話すか、事前の準備が成否を分けると心得てほしい。
 
大企業に勝てる中小企業の魅力とは何か。例えば、多様な価値観に対応できるのは中小企業の強みだ。何千人も社員を抱える大企業では一人ひとりの社員の価値観を尊重することなど不可能。全員の顔と名前が一致する中小企業でこそ柔軟に対応できる。それは在宅勤務など多様な働き方を導入しやすいことにもつながる。あるいは、分業化された大企業で歯車になるより、中小企業のほうがやりたい仕事ができる可能性が高いだろう。こうした中小企業のメリットを学生にしっかりアピールした上で、「規模で会社を選ぶのはナンセンスだよね」と学生にアドバイスできるくらいでなければダメだ。
 
残業時間にしても同じ。最近は働き方改革で長時間労働が問題になっている。しかし、これは解釈の問題だ。まったく働いた経験のない学生からすれば、残業はプライベートの時間を仕事に費やすことになるので嫌だと感じる。当たり前だ。しかし、入社後に何も努力をしなければ、能力は上がらない。30歳になっても入社時点と同じ能力でいいのか。30代で気づけばまだ挽回の余地があるが、40代、50代になってしまえば手遅れになる。
 
20代で頑張って能力を伸ばした結果、30代、40代で自分のやりたい仕事ができるようになった人も多い。「無駄な残業は論外だけど、20代のうちには必要な残業に打ち込んだり、勉強や人脈作りも大切だ。定時に家に帰るだけではもったいないんじゃないの?」とアドバイスしてみてはどうだろうか。
 
もちろん残業を強制するのはよくない。まだ働いたことがなく、残業の意味も分からない学生に、20代で頑張ることの意味を説明し、その価値観に共感する学生を採用すればいいのだ。会社によっては残業が必要ないところもあるだろう。残業の意味を理解して、それでも早く帰りたい学生は、そういう会社を選べばいい。このとき大事なのは、残業に対する考え方について、経営者だけなく役員や人事担当も共通認識を持っておくことだ。でなければ、入社後に「社長は帰れというが、直属の上司が帰してくれない」などの矛盾が生じてしまう。
 
どうしても自社の魅力が見つからない経営者は、取引先などに聞いてみるといい。同業他社が数多くある中で、なぜ選んでくれたのかをヒアリングする。社員に聞く方法もある。人事が新入社員に、なぜ入社を決意したのかをヒアリングする。それをそのまま学生に説明するだけでも効果はあるだろう。

経営者が自らビジョンを語らねばならない

自社の魅力を紹介する際に注意しなければならないのは、客観的な事実を伝えることだ。例えばアットホームであることをアピールするとしよう。しかし、何をアットホームと感じるかは人それぞれ。上司と部下が上下の関係なく飲みに行っているのをアットホームだと感じる人もいれば、土日に家に遊びに行くような関係をそう感じる人もいる。その中身を知らずに入社してしまうと、「アットホームは好きだけれど、そこまでは踏み込まれたくない」と感じる人も出てくる。それが高じれば離職につながってしまうから、「何を説明するか」と同時に「どう説明するか」も重要であると考えたい。
 
また、経営者が自らビジョンについて説明することも重要だ。中小企業の場合は、経営者が企業文化や価値観を作っていることが多い。それに共感できる学生でなければ、入社してもうまくいかない。だからこそ、経営者自らが語らなければならないのだ。
 
経営者の中には「10年先、20年先のビジョンなど考えられない」という人も多いが、それでもかまわない。ビジョンには逆算型と積み上げ型の2種類があるからだ。
 
逆算型は将来の目標を掲げ、そこから逆算して行動していくタイプだ。高い目標はワクワクするし、達成に向けて社員が一丸となりやすい。ただ、10年先、20年先の世の中がどうなっているのかは誰も分からない。掲げた目標が意味のないものになってしまう可能性もある。
 
積み上げ型は、現在の「あり方」に着目する方法だ。自分が大切にしている価値観をビジョンとして行動していく。
 
米スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が提唱したキャリア論に、計画的偶発性理論がある(図)。簡単に言えば「キャリアの8割は偶発的なことによって決定される」との考え方だ。その偶然を計画的に設計すれば、キャリアを高めることができる。行動指針として、好奇心、持続性、柔軟性、楽観性、冒険心の5つが挙げられている。これを応用して「好奇心を持って人に会う」ことをビジョンにしてもいい。その結果、10年後に素晴らしい結果が得られる可能性がある。
 
そもそも学生は、これから仕事をして視野が広がれば、目標は変わって当然。最初から目標を決めてしまうと視野が狭くなり、それ以外の情報が入ってこなくなるデメリットがある。であれば、積み上げ型のビジョンのほうが大きな結果を出せる可能性がある。
 
どちらのビジョンが良いか、悪いかではなく、経営者のタイプによって異なる。未来を描くのが苦手であれば積み上げ型がいいだろう。経営者が自分に合うほうを選び、それに共感する学生を採用すればいい。

「意味のある説明会だった」と学生に思わせるには

説明会は、自社について知ってもらう場であると同時に、社会について知ってもらう場でもあることを意識しておこう。学生時代のルールと社会人のルールはまったく異なる。学生はそれまでの間、お金を支払ってサービスを受ける生活をしてきた。つまり消費者の発想しか持っていない。しかし、社会に出ると一転して生産者になる。価値を提供して対価をもらわなければならないわけだ。その意識は説明会での質問にも表れる。いまだ消費者の意識しかない学生は、「待遇はどうか」「福利厚生はどうか」など、買う側の質問が中心になる。一方で、生産者の意識を持った学生からは、「会社で成果を出す人と出さない人はどう違うか」などという言葉が出てくるかもしれない。
 
中小企業の経営者が説明会でそんなレクチャーができたらどうだろうか。参加した学生は「意味のある説明会だった」と感じるはずだ。それが会社に興味を持つことにつながるだろう。
 
多くの学生に来てもらうためには、中小企業が集まって合同で会社説明会をするのもいいだろう。例えば10社の社長が登壇してパネルディスカッションをすれば、学生は比較しやすいし、その中から興味を持った会社に応募できる。効率がいい。さらに一歩進めて、入社した社員を交換して研修などをすれば、能力の幅を広げることができる。
 
これらは一例にすぎない。工夫次第で中小企業に採用のチャンスは無限大にあることを知ってほしい。

文=向山勇
写真提供=採用研究所

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