SBIC東京中小企業投資育成株式会社

CASE 1

マスコミや自治体を通じ「ホワイト企業」を積極PR

株式会社共進

公的認証を取得し「優良企業」のお墨付きを得る

2008年頃から社会問題化した、劣悪な労働条件で社員を酷使する「ブラック企業」。その一方で、この問題を逆手に取り、「ホワイト企業」であることを積極的にアピールして人材確保に役立てている企業がある。長野県諏訪市の共進だ。

同社は、自動車部品をメインとする金属加工メーカーである。異なる金属のパーツを組み合わせて高圧で接合させ、一つの部品に仕上げる「カシメ」という独自技術(1998年に特許取得)を持つ。

「カシメは、金属を削って部品に加工するのに比べ、材料のロスが少なく、加工時間も短縮できるので、工賃を抑えられます」と、五味武嗣社長は胸を張る。

技術開発志向型の同社は、宇宙航空、医療といった新規分野への参入も図っており、未来を担う若手エンジニアの継続的な雇用が欠かせない。

今の学生たちは、就職先を選ぶ基準として、「福利厚生やワークライフバランスを重視します」と口を揃えて言う。下積みの若い頃、仕事に没頭した上の世代の中には、そんな若者に眉をひそめる人もいるだろう。
 
だが、「学生の親も、学校の先生も、就職先を職場環境で選べと言う時代。労働市場のニーズに対応できなければ、大企業に比べて賃金などの待遇面で見劣りのする中小企業は、人集めで太刀打ちできません」と、五味社長は割り切っている。
 
ホワイト企業とPRするため、同社が立てた戦略の1つ目が、国や自治体などから“お墨付き”を得ることだ。
例えば、厚生労働省が子育て支援企業を認定する「くるみんマーク」を2017年に取得。仕事と家庭を両立できる企業を長野県が認める「職場いきいきアドバンスカンパニー」、社員の健康増進に努める模範企業を経済産業省が選ぶ「健康経営優良法人」の認定も18年に受けた。ホワイト企業と自社でPRするよりも、公的機関に評価してもらったほうが、説得力があるからだ。
実際に、くるみん企業と認定されてからは、結婚しても働き続けたいと考える女性から、問い合わせが急増しているという。
 
とはいえ、公的認証制度はハードルが高い。まずは、企業に自助努力が求められる。例えば、コンプライアンスの順守は各制度の認定の前提となる。

「くるみんの認定には、男性社員の育児休業の取得実績といった厳しい要件もあります」
 
同社は、平均給与や一時金の水準が長野県内企業で高いレベルにある。社員の1日当たり平均残業時間が約20分と短く、有給休暇取得率も約60%と高い。直近10年間では新卒採用者40人中、退職したのはわずか3人。直近5年間では離職率ゼロという定着率の高さも、「働きやすい会社」であることをうかがわせる。労働環境が良好だからこそ、公的認証が受けられるわけだ。
 
当然ながら、同社は官庁の覚えもめでたい。ハローワークから人材を優先的に紹介してもらえることも多いという。

マスコミの取材は断らない 露出を増やし知名度アップ

PR戦略の2つ目が、マスコミに積極的に協力すること。同社では、TVや新聞、雑誌などからの取材依頼は、極力引き受けるようにしているという。
 
マスコミは、取材や企画に協力的で、ニュースになる“ネタ”を提供してくれる企業を重宝する。「困ったときは共進に行け」と言われるようになれば、しめたもの。そうしたマスコミの性質を活用して頻繁に露出し、自社の認知度を高めている。

「マスコミの影響力は大きいです。取材を受ければ、当社のことを広告費なしで宣伝してくれるようなもの。おかげで、長野では知名度がかなり上がりました。最近では、親が無名企業への入社を反対するケースが多いので、その対策にもつながっています」
 
企業活動を自社でなく、マスコミという第三者を通じて客観的に伝えることも、情報の信頼性を高めている。
 
PR戦略の3つ目が、地域貢献だ。中小企業は全国区での採用が難しく、地域での採用が中心になりがちだ。ところが、昨今はそれも難しくなっていると五味社長は言う。

「諏訪は大学や専門学校が少ないので、高校を卒業後、進学する子は地域外に出て行ってしまい、なかなか帰ってきません。就職する子も、今は大企業が大量採用するので、諏訪の中小企業は若手の人材不足が深刻化しています」
 
そこで、地域貢献によって、子どもたちが小さいうちから、親も含めた家族ぐるみで同社に好感を持ってもらう作戦に出た。地方では、“口コミ”の威力が無視できない。好感度が上がり、さらに口コミで広まれば、将来、就職先候補に選んでくれる子どもたちが増えるはずだ。
 
例えば、五味社長は、地元きっての進学校である諏訪清陵高校の運営に参画する「評議員」に就任(五味社長も同校卒業生)。そうしたつながりから、同校への寄付活動などを実施している。高校生や中学生の社会見学なども積極的に受け入れる。

「社員の中には、中学のときに当社に見学に来たという者もいますよ」
 
また、県内の諏訪東京理科大学や信州大学との交流も深めている。理科大とは、AIによる生産性向上の共同研究に取り組む。信州大からは学生の研修を受け入れる一方、社員を信州大大学院に留学生として派遣している。しかも大学院の学費は全額、共進が負担。

「年間80万円として、2年通っても160万円。人間が得るノウハウやスキルは一生モノですから、投資対効果で考えたら安いものです」
 
五味社長はこう説明するが、信州大の学生や院生に対しても、留学生は「人材への投資を惜しまない共進」の姿勢をPRする、格好の広告塔になると言えよう。このほか、諏訪地域の活性化イベントにも協力し、地元企業の新入社員たちに研修も行っている。

「ホワイト化」は企業価値を上げ採用にもプラスになる

地域活性化イベントで五味社長が講演し、
地元企業の新入社員たちに向けて
「PDCAセミナー」を開催。それぞれ自作の
紙飛行機を飛ばして距離を競い合うなど、
紙飛行機作りを通じて仕事の
進め方を学んでもらった。

実は、これら3つの戦略は、「最初から人材獲得のために展開していたわけではありません」と、五味社長は明かす。そもそも同社がホワイト化を進めてきたのも、「結果として、自社の企業価値が上がると考えたからです」と言う。

「私も会社員の経験があるのでわかりますが、仕事が生きがいというのは理想論。一般社員の大半にとって、仕事は生活の手段です。それならば、仕事を合理的に進めて不要な残業を減らし、自分の時間を増やしたほうがいい。そのほうが社員のやる気が出るし、生産性も上がるでしょう」
 
公的認証を受けたのは、「金融機関の金利が優遇されるなどのメリットがあったから」、マスコミへの対応も、地域貢献活動も、当初は「地元のつきあいから、なりゆきで始めたものが多い」と五味社長は言う。

「しかし、それが回りまわって、役所や地域社会などから、さまざまな支援を受けるという好循環が生まれ、当社のためにもなることに気づきました」
 
採用にもプラスになるため、積極的にPRしていくことにしたわけだ。
 
新卒の争奪戦が激化しているが、共進は19年には大卒1名、高卒1名を採用する予定だ。若年労働者が減っていくなか、毎年2名程度の新卒採用を継続、中途採用も適宜行いながら、社員数100名規模をキープする考えだ。
 
従業員が長く働き続けられる制度を積極的に取り入れ、広く地域社会に認知された共進は、これからも若者たちを引き付けていくだろう。

Profile

五味武嗣社長

会社名     :株式会社共進
主な事業内容  :カシメ加工、精密部品の切削加工など
本社所在地   :長野県諏訪市
社 長     :五味武嗣
資本金     :3000万円
創 業     :1962年5月
従業員     :165名
会社HP                     :https://www.kyoshin-h.com/

文=野澤正毅
撮影=編集部
写真提供=共進

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