SBIC東京中小企業投資育成株式会社

会社を10倍強くする!独自技術の深掘り法 CASE1

新製品のタネは、蓄積した既存技術の中にある

明産株式会社

世界初のNCスリッターを開発 大手製紙会社のシェア8割に

全国屈指の「紙の町」として知られる静岡県富士市。大小さまざまな製紙工場がたち並び、市内では製紙業に関連した機器・資材の生産も盛んだ。そんな同市の製紙関連機器メーカーの中でも、明産は製紙工場などで使う「スリッター」で、他社の追随を許さない地位を築いている。さらに同社は、そのスリッターで培った技術を生かして、「厚さ計測システム」という新製品を開発、第二の事業の柱に育て上げたことでも注目されている。

同社は1967年に設立された。創業者である田原義則氏は、もともと製紙工場の技師で、安宅産業(伊藤忠商事と合併した大手総合商社)系の製紙会社の工場長を務めた後、製紙関連機器の研究・開発を目指して、独立したのだという。

製紙用スリッターというのは、抄紙機で生産された10m幅にもなる原紙(ジャンボロール)を、必要な幅に切り分ける装置のこと。上下2枚の円形の刃を回転させながらハサミの刃のようにかみ合わせ、そこに巻き出されてきた原紙を通すと、切れ目が入って裁断できるという仕組みだ。ただし、紙を正確な寸法かつ、きれいな切り口で裁断するには、「刃のかみ合わせの深さ(ラップ量)や上・下刃の接触圧、トーイン角度などを幅替作業の都度、微調整しなければなりません」と、義則氏の子息である田原義博社長は説明する。

かつては製紙工場の熟練工が、長年の経験と勘によって調整していたが、それを一変させたのが、1972年に同社が世界で初めて発売した「NCスリッター」だ。コンピュータをいち早く活用、一連の調整作業を自動化したのだ。

NCスリッターは、生産性を著しく向上させるとしてたちまち市場を席巻、製紙工場は設備更新の際、続々と導入した。80年代には、大手製紙会社のNCスリッターにおける同社のシェアは、80%以上にも達したという。

さらなる成長をめざし異分野への販路拡大を果たす

明産の技術の深化

機械メーカー勤務を経て、85年に同社に入社した田原社長は、製紙会社以外のメーカーにも、NCスリッターの売り込みをかけるようになった。「国内の製紙業界向けは当時、市場がほぼ飽和状態だったので、売上げの伸びが期待できなかったんですね。製紙工場の買い替え需要をフォローしていれば、安定収入を得られるでしょうが、それではビジネスとしてのやりがいがないし、企業も成長できないと考えたのです」(田原社長)

とはいえ、勝手の違う他業界への売り込みは、一筋縄ではいかなかった。化成品のフィルム材の工場をターゲットにしていたが、既存の競合メーカーでひしめき合っていたのだ。

攻めあぐねていた90年頃のこと、同社の技術に目をつけた大手電子部品メーカーから、電子回路に使われる「フレキシブル基板」という、特殊な複合フィルムのスリッターが欲しいと、注文が舞い込んできたのだ。包装材などの汎用フィルム材と違って、ハイテク機器用の複合フィルムのカッティングには、きわめて高い精度が求められたからだ。複合フィルム用にアレンジした同社のスリッターは、期待通りの機能を発揮し、それを機に、電子機器関連メーカー向けなどの販路も拡大していった。

また、同社は技術力を認められて、10年ほど前から国立印刷局向けに、銀行券用の大型装置も納入している。スリッターについては今後、東南アジアを中心とした海外市場の開拓、リチウムイオン電池やディスプレイ用光学フィルムといった新素材向けの対応も、強化していく方針だ。

一般的に、専業の中小メーカーの経営戦略としては、スリッター領域の開発に特化し、“深掘り”するのが定石と思えるが、田原社長は、新たな成長の機会を得るため、スリッター以外の新製品の開発にも、積極的に取り組んでいる。
「スリッター以外とはいっても、もちろんゼロベースからの開発ではありません。お客様のニーズをリサーチし、蓄積してきた技術やノウハウをそこに生かせるから製品化できる。そもそも得意の専門領域であっても、新製品を生み出すのは至難の業。畑違いの領域に手を出したって、うまくいくはずありませんから」

顧客のニーズに応える同社の開発方法をもってすれば、自ら市場調査をしなくても、製品化できる確率は高い。合理的な方法といえよう。加えて、その「新製品のタネ」となっているのが、機械をコンピュータで制御するメカトロニクスの技術。「内製化したほうが思い通りの製品開発につながる」(同)との考えから、NCスリッターの開発以来、社内で長年培ってきたもので、幅広い分野への応用を可能にしている。新製品の中でも、大ヒットしたのが、89年に誕生した新型の「非接触厚さ計測システム」だ。

持ち前の技術をタネとして顧客ニーズに応え続ける

社員は皆、機械いじり大好き人間ばかり。田原社長も現場で一緒になって汗をかく。

開発のきっかけとなったのは、得意先である板紙工場からの「メカトロ技術を応用して、非接触式厚さ計測装置を作ってほしい」という要望だった。板紙工場では、生産ラインを管理するため、さまざまな工程で紙の厚さの計測が不可欠だ。しかし、主流だった既存の非接触式厚さ計測装置は、放射線を利用したシステムで、取り扱いが難しい。

そこで、同社は、静岡大学や大手重工メーカーと共同研究を行い、磁気と光を同時に当てることで、接触することなく、対象物の厚さを高精度で検知するシステムを完成させた。

紙だけでなく、複合フィルムや特殊フィルム、非磁性体の金属箔といった、さまざまな薄膜状素材の厚さを測れるのも特徴。日米欧で特許を取得したほか、「第24回発明大賞千葉発明功労賞」を受賞している。

メカトロニクスの技術から派生した新製品としては、そのほか、紙の張り具合を独自の方法で自動調整する「テンションコントロールシステム」、スリッターから出た切りくずを除去する「エッジクリーナー」などが挙げられる。

実は、厚さ計測システムは、今や同社の第二の柱どころか、大黒柱に迫ろうとしている。電気自動車などに欠かせない「リチウムイオン電池」は、主に薄膜状の電極板やセパレータで構成されており、これら部材の厚さの均一性が電池性能に大きく影響するため、非接触で高精度の測定を可能にした同社の厚さ計測システムが重宝されている。ここ1年、リチウムイオン電池を量産している韓国メーカーから注文が殺到しており、足元では厚さ計測システムの売上げ構成比が約70%を占めるまでになったのだ。

同社の厚さ計測システムは、競合品よりも価格が高いというが、田原社長は、「『性能』で勝負しています。競争力は十分ありますね」と、強気の姿勢を崩さない。

長引く消費低迷、ネットの浸透によるペーパーレス化などを背景に“紙離れ”が進めば、製紙関連機器メーカーを取り巻く経営環境も決して安泰とは言えない。対して、電子機器の普及によるリチウムイオン電池やディスプレイ用光学フィルムの需要は急成長するなか、厚さ計測システムの市場もさらなる拡大が予想される。スリッター以外の新製品に力を入れてきた明産の経営戦略は、的を射ていたといえよう。

独自技術を武器に新天地を切り開く明産は、シンボルフラワーのヒマワリのように、これからも前だけを向きながら快進撃を続けるだろう。

明産株式会社

田原義博社長

主な事業内容 :ウェブ材料向け加工・測定装置製造
本社所在地 :静岡県富士市
資本金   :2400万円
創 業   :1967年
従業員数  :40名
会社HP  :http://www.maysun-eng.co.jp/

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