SBIC東京中小企業投資育成株式会社

最初の一歩を踏み出す 3つのアプローチ CASE3

顧客ニーズこそ新たなビジネスの生みの親

株式会社東鋼

“塩コショウ少々”のアレンジで製品ラインアップを拡大

金属加工に使うノミのような工具「バイト」、溝加工に用いられる回転式刃物「エンドミル」など、多様な切削工具を製造・販売しているのが、東京都文京区に本社を構える東鋼だ。

その高い技術力は、多くの自動車関連製造業から支持されてきた。わが国の自動車産業を引き立てる「縁の下の力持ち」と言ってもいいだろう。ところが最近、航空機向け工具、医療器具といった新しい分野にも進出、注目を集めている。

同社の歴史は、さまざまな切削加工に用いられる工具の標準品「完成バイト」の生産からスタートした。しかし、戦後の日本経済が急成長し、機械生産システムが高度化・自動化していくと、それに伴って、少品種大量生産のものづくりが定着する。同社でも自動車部品用の切削工具の生産を主力に展開したが、コンピュータ制御のNC旋盤が普及した1990年代以降、そうした流れに変化が生じる。多品種少量生産にシフトし、オーダーメードの切削工具の需要が減少したのだ。このため同社では90年代以降、自動車以外の産業にも目を向けるようになっていく。

創業者から数えて3代目に当たる同社の寺島誠人社長は、次のように説明する。

「工具メーカーは、少品種大量生産の時代にはプロダクトアウトの考え方でも通用したのですが、多品種少量生産の時代になると、顧客のさまざまなニーズに応えて市場を創造していかなければ、存続できません。そこで〝自動車産業向け切削工具メーカー〟というアイデンティティに縛られず、自社のスキルやノウハウをフル活用した〝ソリューションビジネス〟を展開していこうと、事業目的を定義し直したのです」

寺島社長いわく、自動車産業向け切削工具で培った技術は「ちょっと塩コショウで味付けするだけで、かなりの応用が利く」。従来手掛けてきた切削工具に近いニッチマーケットをメーンに、新しい製品づくりに取り組んだ。その結果、同社の取引先はさらに増え、スキルやノウハウの幅も広がった。それが、のちに新規事業に進出する足がかりにもなった。

ハイブリッド車の登場に 売上げ激減の危機感を抱く

新製品としては、例えば、飲料の生産ラインでPETボトルのキャップを自動的に閉める際、ボトルの首を固定しておく器具が挙げられる。既存のステンレス製器具はすぐ磨耗してしまうため、超硬合金製器具を考案したのだ。そのほか、丸太の中に栽培用のシイタケ菌を打ち込む器具も開発した。鉛筆を六角形に削るカッターも、同社が80%以上のシェアを占める。

2000年以降、寺島社長は、同社の将来性に強い危惧を抱くようになった。97年にトヨタ自動車のハイブリッド車「プリウス」が発売されたことが、きっかけだった。

「当時、当社の売上げの70%以上を自動車関連の切削工具が占め、中でも、自動車エンジン関連がその3分の1に達していました。ところが、ハイブリッド車のインジェクション(自動車エンジンの燃料噴射装置)は、プレス加工品が中心になると予想されました。つまり、自動車エンジン用の切削工具は、需要がなくなるということです。エンジンがいらない電気自動車が普及するのも必至で、このままでは当社の売上げも激減してしまうと考えたのです。そこで、自動車関連以外の事業を早急に強化することにしました。経営に余力があるうちでないと、トライアル・アンド・エラーができないし、新規事業の育成には、時間がかかるからです」(寺島社長)

自動車に次ぐ領域として目を向けたものの一つが飛行機向け工具だ。07年には、航空機の機体などに用いられるCFRP(炭素繊維強化プラスチック)に穴を開ける専用ドリルの製造を開始した。CFRPは炭素繊維を束ねてプラスチックで固めたもので、超軽量なのに強度が抜群だ。そのためドリルの刃は消耗が激しく、すぐに刃こぼれしてしまう。大型旅客機の製作では、CFRPに約20万カ所もの穴を開けなければならないので、頑丈なドリルが必要だったわけだ。

国際見本市への出展など 新規事業の市場開拓にも着手

ここ10年ほどで主力製品になったのが医療器具。
骨の手術用の「オメガドリル」は、滑りやすい骨の表面も
しっかり捕らえることができる(提供:東鋼)

もう一つの新規事業が医療器具。本格的に乗り出したのは06年だ。実は、寺島社長は当初、医療器具事業には乗り気ではなかった。過去に歯科インプラント向けの工具などを製作した経験もあったのだが、開発に手間やコストがかかる割にロットが少なく、採算がよくなかったからだ。だが、大手重機メーカーに紹介されて、人工関節向けの手術器具を開発してからは、寺島社長は見方を変えたという。

「人工関節手術は急増していて、手術器具の売上げもうなぎ上りに伸びたんです。認識不足だったと悟って、医療機器市場を調べてみたところ、医療機器には、当社の技術力を発揮できる分野がたくさんあったんですね。試しに知り合いのドクターに相談してみると、手術で悩み事を抱えている先生が多く、高名なドクターからも、価値あるアドバイスを多くいただきました」

自前の医療器具を製造・販売する場合、国からの許認可を受けなければならない。そのため、同社では専任スタッフを置き、09年にはクラスⅠ医療機器製造許可、14年には第三種医療機器等製造販売業許可を取得した。

現在、売込みに力を入れているのが骨の手術用の「オメガドリル」である。骨表面は凹凸が多く、しかもツルツルしているので、ドリルで穴を開けるのが難しい。だが、オメガドリルは、独特のスパイク状の刃先で骨表面を捕らえ、正確に素早く穴を開けることができる。切削抵抗が少なく、摩擦熱の発生が少ないため、組織壊死のリスクも抑えられると、医師からは好評だという。

また、山口大学医学部附属病院と共同で、乳がん向けの手術器具「リセクション・ガイド」も開発した。乳がんの手術の際、病巣をつかんで固定し、必要最小限の範囲の組織だけを切除できるようにした器具だ。腫瘍中心部の触診も可能。乳房の温存や手術時間の短縮、病理診断のための正確な断端検索にも役立つという。

現在、同社の売上げ比は自動車関連と航空機関連が各30%、医療器具関連が約20%、その他が約20%と、バランスの取れた構成になってきた。医療器具については、医療機器の国際品質規格である「ISO13485」を取得、ドイツの国際見本市に出展するなど、海外市場の開拓にも余念がない。

東鋼のポリシーは「お客様のものづくりを手伝うこと」だ。顧客からの要望こそ製品化の最大のシーズと見て、製品開発の依頼はできる限り引き受ける。「中には、日の目を見なかった製品もありますが、開発で得たスキルとノウハウは、別の製品開発にきっと生かされると考えています」(同)。

そうした同社の経営姿勢が、新しいビジネスチャンスを次々に引き寄せているようだ。

株式会社東鋼

寺島誠人社長

主な事業内容 :特殊精密切削工具の製造・販売
本社所在地 :東京都文京区
資本金   :6286万8500円
創 業   :1937年
従業員数  :47名
会社HP  :http://www.toko-tool.co.jp/

© Tokyo Small and Medium Business Investment & Consultation Co.,Ltd. All Rights Reserved.